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前ページ次ページ風の使い魔 空は快晴、風は無風。屋外での実習には絶好の日和。 この良き日に、サモン・サーヴァントは取り行われた。自らが今後の人生を共にするパートナー、使い魔を召喚する儀式である。 その日、誰もが彼女の成功を疑わず、彼女自身もそれは同じだった。遠巻きに教師と他の生徒が見守る中、彼女は高々と杖を掲げる。 詠唱、続いて閃光。瞬間、ふわりと優しい風が頬を撫でた。止んでいた風が再び吹き始めた。 まるで風達が"それ"の来訪を歓迎しているような――不思議とそんな錯覚を受けた。 閃光に目を細めて数秒、何かが落ちる音がした。そよ風が土煙を運び去った直後、どよめきが場を支配した。 現れた"それ"に生徒も教師も、彼女自身も、誰もが一様に言葉を失う。召喚されたモノの前で立ち尽くすのは、 誰もが失敗を予想していた『ゼロのルイズ』こと、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールではない。 同学年の中でもエリート中のエリートであり、成績優秀な彼女が、まさかこんな謎のモノを召喚するとは思いもよらなかっただろう。 「おい、なんなんだ……あの物凄い顔の生き物は……」 誰かが言った。彼を皮切りに次々と、声を潜めて生徒達が囁き合う。 彼らもルイズならば堂々と笑えたが、なまじ秀才の彼女なだけに、囃したてるのもはばかられたのだ。 様々な憶測が飛び交うが、概ね意見は一致しているらしい。 「カエルだろ、どっから見ても」 「カエルが服着てるかよ」 「亜人じゃないかしら?」 「顔以外は全部人間だけど……」 「いやいや、まさかそんなはずは」 「あのベロはどう説明するんだよ」 「カエル顔で、異常に目がでかくて、舌が長い人間だっているかもしれないだろ」 「いねーよ」 「人間の子供よ、きっと……たぶん……もしかして」 「こやつめ、ハハハ」 「もうカエルでいいよ」 「カエルの何が悪いってのよ」 などと、外野は口々に勝手な陰口を叩いている。だが、それすらも彼女の耳には届いていなかった。 別にショックで何も聞こえなかった――わけではない。目の前に横たわっている子供が、地の底から轟くような大いびきを掻いていたからだ。 やがて担当の教師、ミスタ・コルベールがあたふたと生徒の塊を割って歩み出る。コルベールは、禿げ上がった頭に玉の汗を浮かべていた。 困惑も露わに近付くそれは、顔以外は普通の少年。オレンジのシャツ、深緑の半ズボンと、同色の鍔付きの帽子を前後逆に被っている。 見慣れない服装だ、異国人の可能性もある。首から上は見慣れないどころか、四十年余りの生涯で一度も見たことがないほど奇妙な顔だったが。 コルベールは、おもむろにディテクトマジックを唱えた。するまでもなく、結果はある程度予測できていた。 案の定、数秒の思案の後立ち上がった彼は、 「残念ですが間違いありませんね……この少年はただの人間です。魔力も無い、ただの平民……」 首を振りながら呟き、無言の視線で儀式の続行を促した。 「カエル人間!? あの娘……とんでもないものを召喚したわね……!」 囁き合う生徒達の塊から離れて、ルイズは戦慄した。 ルイズにとっては、平民であることよりもある意味では重要事項。なんせカエルは大の苦手、 似た顔の人間であっても駄目だ。自分の召喚する使い魔は、カエル以外である事を願うばかりだった。 さて、彼女には悪いが、内心ルイズはほっとしてもいた。ゼロだなんだと馬鹿にされていたが、 あれの後なら何を召喚しても大丈夫。どんなものでも、あれよりかはマシ。格上の使い魔ならなお良し。 そこまで考えて、自らの志の低さ、卑屈さに嫌気が差して首を振る。こんなことでは駄目だ、と。 そんな惰弱な考えは、ルイズの背丈より数倍高いプライドが許さなかった。 「そうよ、わたしは上手くやってみせるわ……!」 ルイズは迫る順番に、決意も新たに一人拳を固めた。 珍妙な使い魔を前にしても、少女はいつもと変わらぬ鉄面皮。だが、一サントにも満たないほどだが、 ハの字に下がった柳眉。ごく僅かに落ちた肩。ささやかながらも確かな変化。しかし、よくよく注視しなければ気付かないだろう。 唯一、少女の数少ない友人を自負するキュルケだけは、彼女のポーカーフェイスに隠された落胆を察していた。 あら……珍しくへこんでるわ、この娘。でもまぁ、無理もないわね。てっきり風竜かグリフォンでも召喚するかと思ったんだけど…… キュルケは呆れ混じりに彼女の顔を見て溜息を一つ。そう、なんだかんだいって、彼女は感情表現が下手、不器用なだけなのだ。 おそらく、無表情の裏に相当鬱屈した事情を抱えていることは想像に難くない。頑なに殻を作り上げるしかなかったのだろう。 尤も、想像の域は出ないし、彼女が何も言わないので、敢えて聞きはしなかったが。 ふと、キュルケの目が少年の腕に留まった。顔のインパクトが濃過ぎて誰も気に留めていないようだが、 少年は大きな籠を手に引っ掛けていた。彼の持ち物だろう。 一応人間みたいだけど……あの籠の野菜はなんなのかしら? 鮮やかな緑の皮に包まれている棒状の野菜。隙間から覗いた黄色い果実は、一粒一粒が丸々と太り、艶めいている。 四本だけ入った籠を、少年は大事そうに抱き直した。 少女の名はタバサ。二つ名を『雪風』のタバサ。 キュルケの読みは見事に的中。タバサは実際、落胆していた。 周囲の嘲笑も、好奇の視線もどうでもいい。使い魔だって別段、高望みをしたつもりはない。 ただ任務の為に、自分の目的の為に、役に立ち、頼れる使い魔が欲しかっただけなのに。 足元に転がっているのは、顔を除けば、明らかに年下の少年。足手纏いになりこそすれ、とても役立ちそうになかった。 起こそうと思い揺すってみても、まったく起きようとしなかった。 やり直させてくれと言ったところで、取りあってはもらえないだろう。神聖な儀式、やり直しが利く性質のものでもない。 こほん、とコルベールが咳払いをして言う。 「コントラクト・サーヴァントを」 遠巻きに眺めていた外野も今は沈黙。全員がタバサを見守っている。 仕方ない、このまま契約してしまおう。腹を括ったタバサは片膝を付き、格式張った呪文を唱えた。 次に、相も変わらずいびきを掻いて眠っている少年に、ゆっくりと顔を近づけていく。 なんだろう……この物凄い顔の生き物…… 見れば見るほど変な顔である。男というよりペットにキスするようで、別段何も感じなかった。 タバサが舌の付け根に口づけると、少年のいびきが止まる。全ての音が消え、 微かに風が草を揺らす音だけが残った。そして――。 「あちちちちち!!」 右足の甲を押さえて、少年がじたばたともんどりを打つ。なるほど、ルーンの位置はそこか。 タバサはしゃがんだ姿勢のまま、しばらくその様子を眺めていた。 やがて少年はひとしきり暴れると、動きを止め、ピクリとも動かなくなった。 まさかまだ寝足りないのか――タバサがどうしたものかと思案していると、少年は突如、むくっと起き上がる。 やはり舌をベロンと垂らし、魚のようにまんまるの目からは一切の感情は読み取れない。 周囲を見回した少年は大欠伸をし、一番近くにいたタバサに焦点を合わせ第一声。 「腹減った」 風の使い魔 第一章「輝きは君の中に」1-1 なんとなく徒労を予感しつつも、タバサは少年に使い魔のなんたるかを掻い摘んで説いた。 どうやらこの少年、魔法も貴族も無いような国から来たらしい。その為、 ここが何処かから説明しなければならなかったのだが、話を聞いているのかいないのか、終始首を傾げていた。 たぶん、話の半分も理解していないだろう。実際彼は三分の一も理解していなかったのだが。 「つまりおめぇが俺を呼んだ。そんで俺に助けてもらえねぇと困るってことか?」 「そう、お願い」 何を助けるのか、ちゃんと理解しているのかは甚だ怪しいものだが、取りあえず、使い魔になってくれないと困るという点は分かっているようだ。 「そういうことならいいぞ。まぁ婆ちゃんも最近は元気そうだし、畑はポチや村のみんなが面倒見てくれてるだろ」 意外なことに二つ返事だった。使い魔は最初から主人に好意的だというが人間も同じなのだろうか。 「私はタバサ。あなたは?」 「俺は風助ってんだ」 「よろしく」 形だけの挨拶を交わして、タバサは風助から離れた。風助はその場で座り込んだままだ。 これと信頼関係を築けといわれても、どうすればいいのやら。決して顔には出さないが、始まりから暗礁に乗り上げた気分だった。 「話はつきましたか?」 と、尋ねるコルベールに無言で頷く。 「では、最後は……ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 ルイズが緊張の面持ちで進み出る。その顔にはタバサの召喚前に比べ、確かな自信が宿っていた。 杖を掲げ、ささやかな胸を張り、祈るようにルイズは唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ……」 その後、ルイズも平民の少年を召喚したが、特に誰も驚きはしなかった。むしろ、 「良かった……普通の人間で……」 と、胸を撫で下ろしたくらいだった。それほどまでに風助の衝撃は尾を引いていた。 ともあれ、こうして使い魔召喚の儀は無事? に終了。生徒達は学院に帰る為、次々に『フライ』の魔法で空に舞う。 「おー、すげぇなぁ。藍眺みてぇだ」 悠々と空を飛ぶメイジ達に、風助は最も親しい友達の一人を重ねた。 感嘆の声を漏らしている風助にも取りあわず、空に浮かんだタバサは風助にもレビテーションを掛けた。 ふわりと風助の身体が地面から浮きあがる。 タバサは風助の手を握った。初めての空中浮遊。パニックになったり、 バランスを崩して事故を起こしては面倒だったからだが――結論から言うと、その必要はまったく無かった。 「おおっ!? ふは、はははっ。おもしれーな、これ」 それは風を掴むとでもいうのだろうか。レビテーションを掛けて浮き上がった風助は初めてにも関わらず、 下手なメイジよりも上手くバランスを取って、宙を泳いだり、くるくると回ったりしている。 そのはしゃぎっぷりは、他の生徒の視線も集めていた。 「遊ばないで」 ぴしゃりと注意した。普通のつもりだったが、声に苛立ちが篭ってしまったことは否定できない。 若干棘のある言葉にも、風助は気を悪くした様子は無い、たぶん。ただ感情の分かり辛い顔を傾げて聞いてきた。 「ひょっとして急いでんのか?」 「少し」 本当はそうでもない。が、これ以上遊ばれても困るし、その方が都合がいいと判断した。 相手は子供、もっと積極的に接した方がいいのだろうか。しかし子供の躾など、どう考えても苦手な分野。 できないことはないだろうが、得意不得意ではない。やりたくなかった。 「それなら走った方がはえーぞ。どっちに行くんだ?」 まさか、最初はそう思った。思ったが、つい今しがた接し方を考えたばかりである。取りあえず好きにさせてみようと、 タバサは無言で進行方向を指差し、言う通りに術を解いて地面に下ろす。 「んじゃ、先に行ってっぞ」 言うなり風助は走り出した。短い手足を機敏に動かして、まるでネズミのよう。だが、すぐに馬にも迫る速度まで加速した。 まさに風の如き速さだが、遠目にも無理や息切れの様子は見られない。 タバサは目を見張ったが、呼び止める間も無く、風助は一人遠ざかっていく。そして、 「あっ……」 という間に小さくなってしまった。 「頭はあんまり良くなさそうね……」 タバサのほんの僅か険しくなった顔に、キュルケは思わず苦笑いを禁じ得なかった。 ともかく掴みどころのない使い魔に、大いに戸惑っている。彼女が初めて見せる生の表情。 これは面白くなりそうだ――そう感じずにはいられないというもの。 幸い、学院は近くだし、周囲は見通しも良い。草原は見渡す限り青々と広がり、大きな建物は学院のみ。 まっすぐ進むだけなら、まさか迷うこともあるまい。そう思って数分後、タバサが学院に戻っても使い魔の姿はどこにもなかった。 「あれ? そういやどこ行きゃいいんだ?」 果てしなく広がる草原で、風助は立ち止った。こんなに風の心地いい草原は久し振りだったので、少しはしゃぎ過ぎてしまった。 足がかつてないほど軽やかに動いたせいもある。 「えーっと……あそこに行きゃいいんだっけ」 本人は真っ直ぐ走っていたつもりだった。それがどういうわけか、ほぼ直角に曲がり、現在学院は背後に見えている。 何故、目標に真っ直ぐ走っていてこうなるのか、 「ま、いいか」 深く考えず、改めて学院に向けて歩きだす風助。暫く歩いていると、遠くに二人並んで歩いている人間を見つける。 一人は、タバサや大多数の者と同じ服装の少女。もう一人は、比較的見慣れた服装の少年だった。 「よー」 「ひっ! タバサのカエル人間!?」 召喚した使い魔――平賀才人と一緒に、学院へとぼとぼ歩いていたルイズは、声を掛けられるなり才人の背中に隠れた。 ルイズにパーカーの袖を掴まれた才人は、自分の後ろにこそこそ隠れる主を訝しげに見つめる。 「お前、何やってんの?」 「ううううるさいわね!」 才人からすれば、何をそんなに怯えることがあるのか不思議でならない。確かに目の前の少年は奇妙な顔をしているが、 散々他の使い魔に驚いた後なので今更驚きはしなかった。何より自分の置かれている、この状況が一番奇妙だ。 「おめぇらあそこに帰るんだろ? 一緒に連れてってくんねぇかな?」 「ああ、別にいいけど……」 「ちょっと!? なんであんたが答えてんのよ!」 「なんだよ、どうせ同じ所に帰るんならいいじゃねぇか」 「う、それは……そうだけど……」 弱点を知られたくない、これ以上情けない自分も見せたくなかったルイズは、 「分かったわよ! 好きにすれば!」 そう言い捨てると、早歩きで風助から離れる。才人と風助は顔を見合わせると、揃って首を傾げた。 才人は改めて風助の服装に注目した。マントやローブでなく、普通のシャツと膝丈のズボン。 被っているのは野球帽だし、靴はどう見てもスニーカーだ。 もしや、彼も同じ世界から召喚されたのだろうか? 才人はその場で追求しようとしたが、 「何やってるのよ! さっさと来なさい、この愚図犬!!」 前を歩くルイズがうるさいので、深く追及はしなかった。 同類相憐れむ。才人は隣を歩く風助を見下ろし、わざとらしく肩を竦めてみせた。 「そんじゃ行こうぜ」 「おー」 この状況に順応しているのか、それとも何も考えていないのか。風助は笑顔で右手を突き上げた。 その夜、タバサに付いて風助は食堂に入った。床で食べるのは苦でもなんでもなかった。元々気にする性格でも生活でもない。 何より風助の関心は食堂に入った瞬間から、食事のみに向けられていた。 風助に出した食事は、貴族の物には幾分劣るものの、そこそこの量と質はあった。少なくとも、固いパンと薄いスープだけ、 というようなことは断じてない。 それなのに風助ときたら、それをほとんど一口で平らげると、開口一番、 「足んねぇ」 「我慢」 タバサも、一秒と間を置かず答えた。 なんとなく予想はしていたのだ。だが甘やかせば限が無い、自分だって皆と同じ量なのだから。 「部屋に戻る。時間までは好きにしてていいから」 言いながら、タバサは席を立った。既に寮での基本的な生活は説明してある。果たして理解しているかは、やはり謎だったが。 そして、食堂に一人取り残される風助。満腹にはほど遠いが、動けないほど空腹でもない。 「さて……どうすっかな」 考えてみれば、ここはまったく知らない国の知らない場所。腹ごなしでもないが、探検するのも面白そうだ。そう思った風助は食堂を出て、ふらふら敷地内をぶらつく。 目的もなく彷徨っていると、寮の中庭に出た。ずらりと並んだ部屋の窓のほとんどに明かりが灯っている。 その明りに照らされて、見た顔が木にもたれて座っているのが見えた。 「よー、なにやってんだ、おめぇ」 「ああ、お前か……」 座っていたのは、ルイズの使い魔、才人。彼は風助を一瞥すると、あからさまに不機嫌な顔で答えた。 「ちくしょう、あいつに口答えしたら部屋追い出されちまった。掃除に洗濯、なんでも俺に押し付けるんだぜ?」 「そんなに嫌なら、やんなきゃいいんじゃねぇのか?」 風助は才人と同じ木にもたれながら、事もなげに言った。 風助の言うことも当然といえば当然。しかし同意を期待していた才人は、ふて腐れて横になった。 「そう簡単に行くかよ。この世界に知り合いも友達もいねーんだ。追い出されたら行くところもねぇ。お前だってそうだろ?」 「まーな」 「お前はどうなんだよ。嫌になんねぇのか? そもそも何で使い魔なんてあっさり引き受けたんだ?」 「俺は別に嫌じゃねぇぞ。引き受けたのは……わかんね。たぶん、そうだなぁ……あいつに助けてくれって言われたからだぞ」 それは風助自身にも形容し難い、不確かで曖昧な、直感とも言える何か。当然伝わるはずもなく、才人はその言葉を額面通りに受け取った。 「お人よしなんだな、お前」 「そうか?」 「お前の……タバサ、だっけ? あの娘は当たりだよ」 「おめぇはハズレなのか?」 逆に風助に質問され、困り顔で唸り出す才人。自分で言っておいてなんだが、彼女をハズレだと言い切ることには一抹の抵抗を覚えた。 或いは、この世界の貴族とはああいうもので、誰でも大差は無いのかもしれない。数十秒唸って考えてみたが、やはり、 「ハズレ……なんだろうなぁ。ああ……腹減った。晩飯も食ってねぇってのに」 「なんだ、おめぇ腹減ってんのか。んじゃちょっと待ってろ」 「あ、おい!」 才人のぼやきを耳にした風助は立ち上がり、寮に入っていく。突然のことに、才人はただ見送るしかなかった。 およそ十分後、風助は手に何か持って帰ってきた。 「わりぃ、迷ってて遅くなっちまった。ほら、これ食え」 才人が手渡されたのは、緑の皮に包まれたトウモロコシ。一応洗ってはあるが、生だった。 「これ……トウモロコシじゃねーか。へー、この世界にもあるんだなぁ」 手に取ってしげしげと眺める。やはり、自分の知るトウモロコシと寸分違わないものだ。 「連れてってくれたお礼だぞ」 「連れて来たのは俺じゃなくてルイズだけどな」 「いいから食え。うめぇぞ。死ぬほど」 死ぬほどかよ、と苦笑する才人。風助は頭の後ろで手を組み、どこか得意気な様子で才人が食べるのを待っている。 魚のような目は変わらないが、うずうずしているのが見て取れた。 促されるままに齧りつくと、生なのに小気味良い歯応え、甘い汁が口の中に溢れる。一口ごとに、空だった胃袋が満たされていくのを感じた。 「俺のお師さんの畑で、俺が作ったんだ」 「ああ、すげー旨いよ。でも、お前なんでこんなの持ってたんだ?」 「んー、俺の十一人の友達はな、毎年お師さんのトウモロコシ食うのを楽しみにしてたんだ」 その時才人には、語る風助が、ふと遠い目をしたように見えた。 「だからお師さんが死んじまった後は、俺が畑を受け継いで、みんなに配りに行ってんだぞ」 「え? そんな大事な物だったのか……じゃあ俺が食ってよかったのか?」 と言っても、もう半分以上食べてしまったが。 「気にすんな、ちょうど全員に配って済んだ余りだ。それに……」 風助はにっこりと笑う。変な顔だと思ったが、なかなかどうして、笑うと愛嬌のある顔だ。 満面の笑みの風助に、才人はそんな感想を抱いた。 「おめぇも、もう友達だぞ」 その言葉で、才人の胸にぐっと熱いものが込み上げた。何か言おうと思っても、上手く言葉が出てこない。結局、 「そっか……ありがとな」 言えたのは一言だけだった。 いきなりこんな異世界に飛ばされ、主人と名乗る少女は横暴。ちょっと反抗すれば部屋を叩き出され、 かと言って他に行く当ても無く、知り合いもいない。これでも、多少心細くはあったのだ。 一人ホームシックになっていたところへ似たような身の上の少年が現れ、友達と呼ばれた。 それが無性に嬉しくて、涙が滲みそうになった。 才人は照れ臭さから鼻を啜り、顔を背けて目元を拭う。そして風助に右手を差し出した。 「そういや、名前も聞いてなかったっけ。俺は才人、平賀才人だ。よろしくな」 「おー、俺は風助ってんだ。よろしくな」 握り返す手は自分のものよりずっと小さく、しかし温かだった。 その後、風助はポケットから小さなハーモニカを取り出した。口に当て、ゆっくりと空気を吹き込むと、そこに音が生まれた。 カエルの口から奏でられるのは、美しくも優しい旋律。どこか懐かしい音色に、才人は目を閉じる。 そうやって感じる夜風は涼やかで、元の世界と何ら変わりなかった。 メロディーは風に乗り、閉じられていた部屋の窓が一つ、また一つと開き、生徒達が顔を覗かせる。中には、 扇情的な寝間着姿を惜しげもなく晒すキュルケの姿もあったが、この時ばかりは男子生徒の視線も彼女には向かわない。 時間にすれば五分にも満たなかったが、誰一人声を発する者もなく、寮のほとんどが風助の演奏に耳を傾けていた。 だが、その中に彼らの主人である二人の少女はいない。ルイズはいつまで経っても帰らない才人を探し歩き、 タバサは外の音を遮断して読書に耽っていた。 二人の少女はこの夜の出来事を知らず、二人の使い魔もまた、それを知ることは無かった。 この日、ほとんどの人間がハズレを引いたと考えていた。周囲の生徒も、タバサ自身も。 ルイズは、自分の使い魔はまだましだったと思うことにした。 キュルケは面白そうな使い魔だと思っていたが、それだけだった。 才人にとっては、異世界で出来た初めての友人だった。 ちなみに、召喚された当人は何も考えていなかった。 誰もが、夢にも思わなかっただろう。彼がタバサを様々な軛から解き放つ風となることも。 彼がまさしく雪風に相応しい……風竜と同じく、或いはそれ以上に風に愛されし存在であることも。 この時点ではまだ、誰も――。 前ページ次ページ風の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第79話 シュレディンガーの猫 時空怪獣 エアロヴァイパー 宇宙戦闘獣 コッヴ 宇宙雷獣 パズズ ウルトラマンメビウス ウルトラマンガイア 登場! アルビオン王国の首都、ロンディニウムを目指す最中、才人とルイズたちは 時空怪獣エアロヴァイパーに襲われて、その時空転移によって仲間たちと 引き離されたあげく、見たこともない世界に飛ばされてしまった。 二人は、飛ばされた先の世界の空中空母エリアルベースの中で途方に くれていたが、偶然にも彼らに興味を持った高山我夢という青年に救われて、 元の世界に帰る方法があると言う彼の助けに、元の世界に戻る希望を見出していた。 現在の、この世界での時間はおよそ七時一五分、元に来た時間は一五時過ぎ、 またタイムスリップが起きるかどうかは不確定だが、ハルケギニアへと 続いている時空の歪みはその時間にしかなく、それまで待っていては この基地ごとエアロヴァイパーの攻撃を受けてしまうので、なんとしてでも 自力で戻る必要があった。 ただし、彼らにとってはまったく偶然にしか思えないようなこの出会いが、 これからのいくつかのパラレルワールドの歴史において、非常に大きな重要度を 持っていたのを、この時点ではどちらも知るよしはなかった。 そんななかで、二人は我夢の自室で身を隠しながら、彼が準備をしている間、 お互いの世界のことについて話していたが、我夢の口から語られるこの世界の 事実は、二人を何度も驚愕させた。 「この世界は、常に狙われ続けています」 そう、ここは地球であることは間違いないが、この世界もまたほかの様々な 世界同様に、平和を脅かされていた。 時代は二〇世紀末、突如として宇宙から送り込まれてくる、それまでの 地球人類の常識を超えた地球外生体兵器群、それらに対抗するために 人類は秘密裏に地球防衛連合GUARDと、その特捜チームXIGを組織し、 巨大空中空母エリアルベースを建造し、その攻撃と戦い続けていた。 そしてその、地球を狙っているという正体不明の敵とは。 「根源的、破滅招来体……」 「そう、それも仮称に過ぎないし、出現先や目的もはっきりとしない。 ただその存在だけは想定された、そんな敵さ」 キーボードを操作しながらぽつりぽつりと語る我夢の言葉には、これまで 何度も死地を潜り抜けてきた重みが備わっていて、二人はそれが誇張や 虚構などではないことを知った。 それにしても、仮称とはいえなんと不気味な名前であろうか、人類に 対しては攻撃を仕掛けるものの、反面具体的な意思は示さずに、 常に正体は厚いヴェールに隠され続けているということが、形のない ものに対する原始的な恐怖を呼び起こしてくる。 「もしかして、おれたちがこっちに来てしまったのも、その破滅招来体の 陰謀なのかな」 「それはわからない。なにせ、これまでに起きた事件でも、破滅招来体と 関係があるのかないのか、あいまいで終わったものも多いからね」 その点でいえば、正体が知れている分ヤプールのほうがやりやすいだろう。 もちろん、脅威の度合いでいえば甲乙つけがたいが、こういう類の 敵は関係ないことまで、もしかしたらこれも、と思わせる分だけ性質が悪い。 「けれど、これはあくまで僕たちの世界のことであって、君たちには 関わりがないし、なるべきじゃない問題さ」 「けど……」 「この世界のことは、この世界のことで解決するさ。それよりも、君たちは 君たちで、元の世界でやらなきゃいけないことがあるんじゃないかい?」 だから、君たちを元の世界に戻すのは、余計な人を巻き込みたくない からでもあるんだと前置きすると、我夢はそういえば君たちの来た世界は どんなところなのかと、興味深そうにたずねてきた。 二人は、今度は才人の世界でメビウスがエンペラ星人を倒したとき までや、ハルケギニアでのこれまでの戦いのことなどをざっと語り、 我夢の反応を待った。 「異次元人に宇宙人、怪獣……パラレルワールドでも、やっぱり宇宙の 平和は脅かされているのか」 振り返らずにつぶやいた我夢の声は明るくはなかったが、同時に 絶望もしていないようだった。 「あの、高山さん……」 「けど、どの世界でも平和を守るために戦っている人はいる。それだけで 充分安心したよ」 「えっ?」 「はは、それよりも、君たちの世界のこと、もっといろんなことを教えてくれないかな?」 我夢は、怪獣などの殺伐とした話はもういいから、それらの話とは別に、 才人の地球やハルケギニアの普通のことについて聞きたいと無邪気な興味を 見せてきて、二人は才人の学生生活の頃や魔法学院のことなどを話した。 「へえ、なかなか面白そうな世界だね。できるのなら、一度行ってみたいな」 「そうですか?」 「そりゃ興味深いよ、異なる発展を遂げた文明はそれだけでも人間の 可能性の豊かさを見せてくれる。進化の可能性は、まだまだ無限大にあるってね」 才人の地球と、この世界とはあまり差はないように思われたが、それでも メテオール技術などには深い興味を抱き、可能なら留学してみたいと我夢が 言うのに、才人は目をぱちくりさせていた。 また、二人の話や、この基地の規模に圧倒されてほとんど自分からは しゃべれていなかったルイズからも、我夢は熱心にハルケギニアの 話を聞いていたが、ルイズはしゃべるたびにどことなくつらそうな顔をして、 やがて言葉を止めて我夢に尋ねた。 「あの、ミスタ・タカヤマ」 「ああ、呼び捨てでいいよ。なんだい?」 一応相手が年長者で、自分が招かれざる客であることを自覚しているので 敬語で遠慮がちに話すルイズに、才人も何かなと耳を傾けると、彼女は つらそうに口を開いた。 「あの、正直に言ってほしいんです。わたしの話は、そんなに面白いですか」 「面白いよ、魔法が実在している世界なんて、すごくわくわくする」 「ええ、けどそれはおもしろおかしそうだから、そう思ってるんじゃないですか、 わたしは、あなたたちの話の百分の一も理解できないけど、この基地だけでも わたしなんかには想像もできない技術で作られているってことくらいは わかるわ、だから……」 ルイズはそこで言葉を詰まらせたが、言いたいことは我夢にも才人にも 理解できた。彼女は、これまで才人に言葉ごしに聞いていただけであった 科学技術、それも才人から見てさえ超科学とさえいえるエリアルベースの それを目の当たりにしてしまって、いわば黒船来航のときの日本人のように ハルケギニアにコンプレックスを抱いてしまったのだ。 才人は、そういえば自分のいた地球にも、科学技術の進んだ星に あこがれて、宇宙人にそそのかされるままに実際に地球から立ち去って いった人がいたということを思い出して、その気持ちは少しだけだが わかったが、慰める言葉は浮かんでこなかった。 だが、我夢は穏やかだがまじめな表情をすると、ルイズの目を 正面から見据えて語った。 「ルイズくん、君の言いたいことはわかる。けど、それは間違いだ。 進んだ技術を人から取り入れることは決して間違いではないけど、 それで劣等感を持っちゃいけない。ほかと違うということに、上下なんて ないんだ。ようく、君の故郷のことを思い出してごらん、君の世界は そんな恥ずかしいところなのかい」 「……」 「じゃあ、もう一つ聞くけど、君は自分の生まれ育った世界が、 侵略者に征服されるのを、黙って見てられるかい?」 「それは、そんなことできないわ! 断固として戦うし、これまでもそうしてきたのよ!」 「だろう、それはつまり、君は自分の世界が好きだってことだろ、 ちょっと見れば隣の家の芝生はきれいに見えるものだけど、やっぱり 自分の家ほどやすらぐところはないし、一度失ってしまえばほかに探しても どこにもないんだ。だから、自分の世界が劣っているなんて思わないで、 大切に、大事にしていってほしいな」 「うん……」 深い知性の光を宿した目で見つめられて、ルイズは難しいことながら、 我夢の言葉には嘘はなく、言いたいことがなんとなくだがわかったような気がした。 これは地球の歴史上の事実だが、明治初期西洋文化を取り入れていた ころの日本は、脱亜入欧を掲げてひたすら西洋文明を取り入れていた 反動で、江戸時代までの日本文化が間違ったものだと誤解してしまい、 芸術的、歴史的に貴重な浮世絵などが破壊されたり海外に流出 してしまったりして、後年二束三文で売り飛ばされて海外で保管されていた ものが高い評価を受けているという、なんとも皮肉なことが起こっているのである。 それに才人も、ハルケギニアが地球に劣った世界などとは、今では まったく思っていなかった。 「そうだなあ、確かに最初のころはコンビニもネットもない世界でどうしようかと 思ったけど、空気はうまいし、平民も貴族も話してみればいい奴は多い、 第一雑用さえしてればあとはのんびりできる。あ、こりゃおれだけか」 使い魔には学校も試験もなんにもない、とまではいわないし、決して地球に 勝っているとまでは思わないが、ハルケギニアのルールさえ飲み込んでしまえば、 あとはちょっとした知恵と根性があれば充分に生きていくことができると 才人は思った。第一、実例として佐々木隊員やアスカ・シンなどは ハルケギニアに立派に適応していたではないか。 けれどルイズは、それでも今一つ納得しきっていないようであったが、 ならばと我夢は駄目押しの質問をぶつけた。 「どうしてもそう思うんだったら、こっちの世界に住んでみるかい?」 「え、そんな冗談じゃないわよ、あたしは……」 「それが答えさ」 「あ……」 我夢の完全勝利であった。 まったくもって、才人もルイズも、自分たちとほんの三、四歳くらいしか 違わないのに、知力でも、そして人生観でも「かなわないなあ」と、 我夢をすごく思うのと同時に、自分たちがまだまだ子供なんだなと痛感した。 やがて我夢はなにが映っているのか、二人から見てさっぱりわからない パソコンの画面に向かっていくつかの入力をしているようであったが、 最後に軽くEnterキーをはじくと、椅子から立ち上がった。 「さて、じゃあ行こうか」 「え、どこへ?」 「格納庫だよ、必要なものはそこに置いてあるから、ここじゃあ無理なんだ、 それに、君たちがここに落ちてきたのも格納庫だから、その時空の歪みが 残っていたら、元の時間に戻りやすいからね」 「じ、じゃあ今までやってたのは?」 「ん、ああ、エリアルベースの警備システムに侵入して、ちょっとした細工をね、 また映されたら面倒だから、君たちが映らないようにしておいたよ」 才人は完璧に絶句した。これほどの基地のコンピュータとなったら、 どれほど厳しいセキュリティがあるか想像もつかないというのに、 まるで隣に遊びに行くように簡単にやってしまうとは、GUYSでも彼ほどの 人間はまずいないだろう。 「我夢さん、あなたいったい何者なんですか?」 「ただのXIGの一隊員さ、それよりも、この仕掛けは一〇分しか持たないし、 ベース内が朝食時で人がいなくなるのは今しかないから、さあ急ごう」 せかされて、とにかく二人は我夢について部屋から出ていった。 彼らは、我夢がこのエリアルベースを空中に浮かせているシステム、 『リパルサー・リフト』の理論を確立し、XIGの誕生に大きく貢献した 天才であるとは知らない。 そして、一時的に人のいなくなった通路を小走りで駆け抜けて、 我夢に連れられた二人は格納庫の一角に定置してあった、側面に縦に大きな 円盤のついた大きな機械のそばにやってきた。 「我夢さん、これは?」 「時空移動メカ、『アドベンチャー』二号機、これを使って君たちを元の時空に帰す」 「じ、時空移動メカ!? すげえ」 すごいなどというものではなく、時空移動装置など才人の世界の地球ですら 夢物語にすぎない。それでも、二人にとっての希望の象徴がそこにあった。 だが、近くによってよく見ると、才人は愕然とした。 「が、我夢さん、これって!」 「うん、未完成なんだ」 なんと、アドベンチャーはぱっと見ではできあがっていたが、内装はほとんど まだがらんどうで、とてもではないが飛べるようには見えなかったのだ。 「ちょっと前に一号機を壊しちゃってね。改良型を作ってるんだけど、おかげで すっかり計画が縮小されちゃって、僕が一人で組み立ててるんだ」 思い出にひたるように語る我夢に、二人とも完全に唖然となった。 こんな未完成品でどうしろというのか、元の世界に帰してくれると いうのは嘘だったのか? しかし我夢は胴体の下に潜り込むと、機械部分を空けてドライバーで 部品を外し始めた。 「この機体はまだ飛べないけど、行って帰ることを考えないならメインのシステム だけを取り外して使えば充分だよ」 「なるほど……あ、でも行って帰ることを考えないっていうなら、おれたちが それを持って行ったら、我夢さんが困るんじゃあ」 「いいさ、機械はまた作ればいいけど、君たちには今これが必要なんだ」 なんのためらいもない我夢に、二人は頼りっぱなしなことを情けなく思ったが、 我夢は気にした様子どころか、むしろありがたそうに二人に笑いかけた。 「いや、礼を言うのは僕のほうさ、君たちのおかげで、これから起こる 事態をあらかじめ知ることができた」 そう、才人たちはさきほどの話の中で、このエリアルベースが 六、七時間後に壊滅するということも伝えていたのだ。むろん、 それで我夢がショックを受けるのではと思ったが、意外にも我夢は あまり気にした様子もなかったので、ルイズは思い切って聞いてみた。 「あの、ガムさん? あなた、怖くないんですか? 目の前に最後が 迫ってるってのに」 「最後になんてならないさ、僕がいるからね」 手を機械油で汚しながら、ドライバーやメガネレンチを使う我夢は 落ち着いた様子で、もうそうなることはないと自信を持って答えた。 「だけど、現にわたしたちの見た未来では……」 二人の脳裏に、墜落して残骸となったエリアルベースの無残な 姿が蘇ってくる。いったいどうしたのかは詳しいことまではわからないが、 あの未来ではおそらくこの基地の人間は全員……なのにどうして そんなに落ち着いていられるのかと二人が問うと、パーツを外して 出てきた我夢は、作業テーブルの上に置いてあった計量用の ビーカーを手に取って。 「才人くん、シュレディンガーの猫って知ってるかい?」 才人が首を振ると、我夢はビーカーを手の中で回しながら、ゆっくりと 説明を始めた。 「量子力学では、有名な理論の一つだけどね。簡単に言えば、 密閉された箱の中に一匹の猫と、毒エサを入れて一時間ほど 放置しておいたら、一時間後に猫は毒を食べて死んでいるか、 それとも食べずに生き残っているか、空けてみるまではわからない。 つまり、確率論的には、箱の中では猫は死んでいるし、同時に 生きているとも言える。けど、現実にたどりつく未来は一つだ」 一句一句、確認するように語った我夢は、二人がとりあえずそうした、 猫が死んでいて、かつ生きているといったパラドックスがあるということを どうにか理解したのを、理知的にうなずくルイズと頭髪をかき回しながら しぶい顔をしている才人を見て確認すると、ビーカーを目の前で かざして見せた。 「じゃあ、このビーカーだけど、これを床に落としたらどうなると思う?」 二人は、もろそうなビーカーと、ゴムが敷かれた床を見比べて、 それぞれの答えを出した。 「割れる」 「割れない」 「そう、つまりこのビーカーの未来は、割れていて、かつ割れていないという、 落としてみないとわからない不確定なことになる。だけど……」 我夢はビーカーを握っていた手を離した。すると、ビーカーは重力に 引かれて9.8m/sで加速していき、二人の視線は急速に距離を 縮めていくビーカーと床に集中して…… 「んなっ!」 「ええっ!?」 二人の期待は、右斜め上の方向で裏切られた。 ビーカーは床の寸前で我夢に掴みあげられて、そのまま持ち上げられると 無事な姿を見られたのだ。 「割れなかったろ」 「そ、そりゃ割れるはずないでしょうが!」 「ずるい、そんなのないわよ」 得意げに言う我夢に、才人もルイズもそんなの反則だと口々に抗議する のだが、我夢は二人に言うだけ言わせると、真面目な表情で語った。 「そう、割れるはずがないよね。けど、そのままだったらこのビーカーの未来は 1/2の確率で運命にゆだねられていたけど、僕の手という意思が加わる ことによって、割れない方向に定まったんだ」 「あっ……」 そこで二人は我夢の言おうとしていることを理解した。 「つまり、未来は意思によって変えられる。そういうことですね?」 「ああ、決まった未来なんてあるはずがない。この時間軸は、間違いなく 君たちの来たエリアルベース崩壊の時間軸には流れなくなる。いいや、 僕がきっとそうしてみせる」 我夢の声に、その意思を確かに感じた二人は、これ以上のおせっかいは 不要だと悟った。 「わかりました。けど、時空怪獣は手ごわい相手です。気をつけてください」 「頑張るよ。さて、あまり時間がない。こっちに来てくれ」 我夢は取り外した一抱えほどある時空移動システムにバッテリーをつなぐと、 機能の微調整をしてスイッチを入れた。すると、システムが格納庫に残っていた わずかな時空の歪みを検知して、一角の空間が渦巻くように歪んでいく。 我夢の説明によれば、歪みが最大になったときに近くのものもまとめて ジャンプするとのことだったので、二人は時空移動装置の前に立って そのときを待ちながら、我夢に最後の別れを告げた。 「あの我夢さん、本当にいろいろとありがとうございました!」 「あ、ありがとう、このご恩は忘れませんわ!」 「いいよ、むしろお礼を言うのは僕のほうさ。無事に帰れたら、君たちも頑張れよ」 手を振って見送りながら、我夢は二人の姿が時空のかなたに消えていくまで、 見つめていた。 なのだが、ここで我夢にも思いがけないアクシデントが起こった。 才人たちと会っていたために、我夢は気づいていなかったもう一組の 異世界からの闖入者が、またもや見つかって追いかけられてきたのだ。 「北田、そっちに行ったぞ! 逃がすな」 「くそっ、つかまってたまるかよ」 よく知った声と、聞きなれない声が、偶然であるのかこっちのほうに 近づいてくる。まずいことに、時空の渦はまだ残っていて、うかつに 近づけば吸い込まれてしまうかもしれない。 「まずい、こっちに来ないでください!」 我夢は慌てて、やってきたGUYSの三人に向かって叫んだが、 向こうも追われれば逃げるというふうに全速力で来たために、 もろに時空の渦に突っ込んでしまった。 最初に飛び込んだリュウと、続いてテッペイが思わぬおこぼれに 預かって彼らも来た時間へ戻っていく。けれどミライだけは時空間の 手前で立ち止まって、我夢と視線を合わせていた。 「君は……」 「あなたは、あのときの……」 我夢は、会ったことのないはずのミライの姿に、なぜか不思議な 懐かしさを感じたが、時空間の入り口が閉じかけているのを見ると、 反射的にそれを指差していた。 「急いで!」 「はい、ありがとうございます」 律儀に礼を言ってミライの姿も時空間に消えていき、一瞬後に 入り口は時空移動システムもろとも、この世界から完全に消滅した。 「行っちゃったか」 元の時間軸に戻れたかどうかは我夢にも確かめようもなかったが、 なぜか彼らであれば、どんな困難が待っていようとも乗り切っていくことが できるだろうと、根拠はないが不思議な確信があった。 「おい我夢、今ここに来た奴ら、どこに行った?」 振り返ると、そこには彼の仲間たちが息を切らせた様子で立っていた。 「どうしたんです? チーム・ライトニングにチーム・ハーキュリーズがおそろいで」 「ここに来た不審者だよ。追い詰めたと思ったのに、お前隠してないだろうな?」 「まさか、僕はアドベンチャーをいじってただけです。おかしいと思うなら、 どこでも探してみてください」 もう、なにをしようと彼らが見つかることはありっこないので、余裕たっぷりの 我夢の態度に、皆しぶしぶながら納得して去っていった。 そして、時間はA.M8:00、エリアルベースに警報が鳴り響く。 ”エリアルベース近辺の空間にエネルギー体の反応をキャッチ、 チーム・ファルコン、ファイターEX、スタンバイ” 「来たな、歴史を思うとおりにはさせないぞ、エリアルベースは必ず守る」 決意を新たに、我夢は自分の専用機であるファイターEX機に向けて走り出した。 そして我夢の思いを受けて、才人とルイズも渦巻く時空の波を超えて、 ようやく三次元空間へと復帰していた。 「ここは、元の時間か?」 周りの景色は格納庫のものから、元来た荒廃した廃墟と、裂けた外壁から 見える荒涼とした砂漠のものとなっていた。我夢の作り出したアドベンチャーの 時空移動システムは見事に時空を超えて二人を送り返してくれたのだ。 「すげえな! ほんとに戻ってきたんだ」 万歳三唱しかねない勢いで、才人は我夢は本当に天才なんだなと 素直に賞賛と尊敬を表した。ただし、過信だけは禁物と念のために 懐中時計を覗き込んでいたルイズは、重くぽつりとつぶやいた。 「喜ぶのは早いみたいよ。これを見なさい」 「え、これは!?」 「そう、13:34、元の時間より二時間ほど前だわ」 じゃあ、失敗したのかと才人の心に焦りが浮かんだときだった。 二人の耳に、引き裂くようなあの鳴き声が聞こえてきて、とっさに外壁の穴から 飛び出して空を見上げたとき、そこにはあの黒雲のような時空間への 入り口が開き、そして。 「あれは!」 エアロヴァイパーがそこから現れて、このエリアルベースの残骸へと まっさかさまに急降下してきた。 「時空怪獣……そうか、あいつが時空を歪めていたから元の時間に戻り 切れなかったんだ」 「それよりも、あいつがまだ生きてるってことは、やはり未来は……」 変えられなかったのか? 我夢や、エリアルベースの人々のことを思い浮かべて二人はぞっとした。 「未来は変えられるって、やっぱり無理だったのかよ」 どうせ戻れないのならば、無理にでも残って戦っていればよかった。 そうすればわずかでも犠牲を減らせたかもしれない。しかし、苦悩する 才人を叱り付けるようにルイズが言った。 「サイト、悔しがってる場合じゃないわよ。あいつを倒さない限り、わたしたちも この世界に閉じ込められたまま、それじゃわたしたちの世界も守れないわ」 見上げた彼女の目には、過去を悔やむ気持ちはなく、がむしゃらでも ひたすら前へ進む意思が宿っていた。 「行くわよ、意思が未来を決めるって、彼も言っていたでしょう。人の知らない ところで決められた運命やなんだで、わたしの未来を指図されるなんて 冗談じゃないわ」 その目は何度も見てきたルイズならではの、彼女の人生そのものと いえる光を宿した目だった。彼女は才人と会う前から、いくら魔法を使えない 無能・ゼロとさげすまれてもいつかは使えるようになるとあきらめず、 結果として才人を呼び出し、出会って以後も人が止めるのも聞かずに ベロクロンやホタルンガ、メカギラスにも単身向かっていったりと、 後先考えずどんな結果が待っていようと負けず嫌いに立ち向かっていった。 言い換えれば、売られたけんかは買わねば気がすまないやっかいな 性格だともいえるが、周りに流されずに、良いことも悪いこともすべて 自分で選択してきた生き様は、現代日本で普通の高校生として テストや進学に流され続けてきた彼にはとてもまぶしく、そしてその がむしゃらなまでに誇り高さを貫くところが好きだった。 「そうだな、こうなったら弔い合戦だ!」 我夢のためにも、元の世界に戻るためにもここで気落ちしている わけにはいかない。第一下手に落ち込むとルイズにきつい気付け薬を プレゼントされてしまうので、その点は断じて避けたい。 だが、そうして二人がエアロヴァイパーを見上げたとき、突然エースが 心の中から話しかけてきた。 (待て、この世界の歴史はまだ定まっていない) 「え? どういうことよ、もうここは……」 (いや、私にはわかる……この世界を守る者は、まだ滅んでいない、見ろ!) その瞬間、舞い降りてくるエアロヴァイパーを迎え撃つかのように、 空へと舞い上がっていく四機の翼が轟音とともに、彼らの視界に飛び込んできた。 「あれは、ファイター! ということは、我夢さんもあれに」 そう、それはXIGの主力戦闘機XIGファイターSSとファイターSGの三機と、 我夢専用のファイターEXの雄姿、証拠はないが、不思議な直感によって 二人は飛び上がっていく編隊に我夢がいると確信し、見事にそれは的中していた。 あの後、二人を見送った後の我夢はエリアルベース近辺に現れたエネルギー体に 潜んでいたエアロヴァイパーと戦うために、自らファイターEX機で参戦していき、 才人たちと同じように崩壊したエリアルベースの未来で、様々な形をとった 未来と対面していったが、最後にこの時間帯で決着をつけるために現れた エアロヴァイパーを迎え撃ち、未来を変えるために飛び立ったのだ。 「頑張れーっ! いけー!」 「撃ち落しちゃいなさーい!」 本当に、我夢がいるという確証はないのに、二人は疑いもなく声援を送った。 だが、いったいそこまで根拠のない確信を持たせ、それが的中した理由は なんなのだろうか? それは、二人ではなく、二人と同化しているエース、 北斗星司の記憶にあった。 ”オッス! あれ? 僕ら一番最後?” どこかのレストランで、ハヤタや郷たち兄弟といっしょに、先にやってきていた 我夢たちと仲良く話すビジョンが、一瞬エースの脳裏に浮かんだ。 (なぜだろう、俺はあの我夢という青年にどこかで会った気がする。しかも、 ずいぶん親しくしていたような) そんなことはないはずなのに、記憶のどこかからとても親しげな感情が 浮かんでくる。そしておぼろげに見える自分以外のウルトラマンたちの影、 共に超巨大な怪獣に立ち向かう、見慣れたセブンやジャック兄さんたちと メビウス……そして…… エース・北斗は、これが我夢の言った、別の世界の自分との記憶のリンク なのかと思い戸惑い、同時に、この時間帯のエリアルベースの反対側に 飛ばされてきた、その答えを唯一知るメビウス・ミライは、数奇なめぐり合わせに 運命の皮肉を感じていた。 「また会いましたね、別の世界の兄弟たち……」 運命の糸が絡み合い、数々の思いが交差するこの時空間の中で、 思いの答えを見つける暇もないままで戦いは始まっていく。 急降下するエアロヴァイパーと、同じ角度で上昇していくファイターチーム、 先手をとったのはファイターチームで、三機連携のとれたレーザービームが 赤い光となってエアロヴァイパーに吸い込まれていく。だが、命中直前に エアロヴァイパーの角が光ると、奴の姿が掻き消えてレーザーは何もない 空間をむなしく通りすぎていった。 「タイムワープだ!」 才人、ミライ、そして機上の我夢が同時に叫んだとおり、奴は時間移動 能力を戦闘に利用し、攻撃が当たる直前に過去か未来に退避してしまい、 こちらから見たら瞬間移動したかのようにファイターEX機の頭上に出現すると、 口から吐く火球弾でEX機を被弾、戦線離脱させてしまった。 「我夢さん!」 薄く煙を吐きながら降下していくEXを見送りながら、彼の仲間の 三機のファイターはなおもエアロヴァイパーへと攻撃を仕掛けていく、 その空中機動はもとより怪獣に真正面から向かっていく恐ろしい ばかりの闘志は、ミライと共に戦いを見守っていたリュウをも感嘆と させたほどだが、まるで避ける気配すらなく正面から突撃していく 姿には、闘志以上のものを感じさせた。 「まさか、体当たりするつもりか!?」 確かに、レーザーでもさして効果のないエアロヴァイパーを 倒すならば航空機のありったけの弾薬と燃料とともに、自らを巨大な ミサイルに変えての特攻しかないかもしれないが、それでは搭乗者は 確実に生きては帰れない。 「だめだ!」 いくら勝つためとはいえ、それはやってはいけないことだ。才人たちも ミライたちもやめるんだと絶叫するが、エアロヴァイパーとファイターの 距離は近づき、もはや地上からでは何をやっても間に合わない。 だが、あわや衝突かと思われたとき、突如すべての天空を照らさん ほどの紅い光が両者のあいだにきらめいた! 「この……光は」 まばゆい光に照らされながらも、二人はそれをまぶしいとは思わずに、 むしろ春の陽光にも似た暖かなものと、この光の色に確かな懐かしさを 感じていた。 「我夢さん……?」 さらに、満ちた光はCREW GUYSのメンバーたちも照らし出す。 「ミライ、また新しい敵か!?」 「いいえ、あれは味方ですよ」 光に戸惑うリュウとテッペイに、ミライは穏やかに答えた。 そうだ、あの光は敵ではない。起源は違えど、それはM78星雲の 光の国の戦士たちと同じ正義の光! そして光の中から現れた、赤き地球の申し子、その名は! 「ウルトラマンガイア!!」 エースとメビウスの記憶から蘇って、才人とルイズ、ミライの口から 飛び出した名を持つ彼こそ、ティガやダイナと同じく異世界の地球を 守り抜いてきた、光を受け継ぐ勇者の一人。 「かっ……こいい!」 才人ははじめて見るウルトラマンの姿に、まるで子供の頃に戻ったかのように 心の底から湧き出た感情をそのまま叫んだ。宙に浮かんで怪獣を睨みつけている ウルトラマンガイアの姿は、ウルトラ兄弟との誰とも違うが、その勇壮かつ 守るべきもののために戦う闘志を漂わせた姿は、紛れもなく彼が幼い頃から 憧れ続けてきたウルトラマンそのものだった。 (そうか、なんとなく感じていた既視感の原因はこれだったのか) ガイアの姿を見た瞬間、エース・北斗の脳裏にもメビウスと同じビジョンが 生まれていた。我夢の語った、別の世界の自分との精神のリンク、 並行宇宙でガイアとともに戦ったもう一人のエースの記憶が、こうして 再び彼らを引き合わせてくれたのだ。 だが、ガイアの戦いの開始を見届ける前に、再び時空の歪みが彼らを襲った。 「くそっ、こんなときに」 ガイアとエアロヴァイパーが激突しようとしている風景が歪みの中へと 消えていくのを、彼らは無念の思いで耐えるしかできず、お互いがすぐ近くに いたのにも関わらず、才人たちとミライたちは別々の時空の支流へと 流されていった。 しかし、時空間が歪曲を続けて、今度はいったいいつの時間かと覚悟して 飛び出してみると、そこは見慣れたあの街の風景だったのだ。 「ここは!」 「トリスタニア……」 なんと、夜の帳に包まれてはいるが、そこは皆と共に旅立ってきた トリスタニアの街そのもの、いや、街並みは確かにトリスタニアでは あるが、建物はあちこち崩れ落ちて一軒の明かりもなく、高台に 見えるトリステイン王宮も半壊して、月の光に不気味に照らされる その下に生きた人間の姿はどこにもない、街全体が完全な廃墟と 化していたのである。 「どういうことだ!? なんでトリスタニアが滅んでるんだよ」 「これは……まさか!」 無音の地獄と化した街は、二人に何も応えなかったが、ルイズの持っていた 懐中時計の日付がすべてを教えてくれた。そこには、信じられない数字が 示されていたのだ。 「ウィンの月の二十一日……ここは、四ヶ月後の未来よ! しかも、この徹底した 街の破壊ぶりは戦争によるものとしか考えられない。ということは、ここは アルビオンを止められずに、すべてが終わってしまった未来」 「じゃあ、おれたちはこのまま戻れないっていうのかよ!」 「いいえ、運命は自分の意思で切り開くもの……こんな未来を見せて、 わたしたちの心を折ろうとしたって無駄よ、出てきなさい!」 ルイズが空に向かって怒鳴った瞬間、空が歪んで出現したワームホールから 巨大な青い岩のような物体が、廃墟の中へと降下してきた。 「どうもおかしいと思ってたけど、これで合点がいったわ」 「どういうことだ?」 「わたしたちは見られていたのよ。この未来へ続く道を妨害されたくない 何者かによってね。けれど失敗したわね、こんな姑息な方法で心を 折れるほど、わたしはあきらめが悪くない」 見えざる何者かに向かって叫んだルイズの声に呼応したかのように、 地上に降り立った岩塊にひびが入り、それがはじけるとともに内部から 巨大な頭部と鎌になった両腕を持つ二足歩行型の怪獣が出現した。 「怪獣……そうか、これでおれたちばかりが狙われ続けた訳もわかった」 「ええ、敵の目的は最初からわたしたち、ウルトラマンだったのよ!」 現れた怪獣、宇宙戦闘獣コッヴは地を踏み鳴らし、長い尾を振り回しながら 二人をめがけてまっすぐに進んでくる。その振動が近づいてくるたびに、 二人はこれが現実であることと、この戦いが仕組まれたものであるのならば、 その邪悪な意図を打ち砕くにはどうすればよいのかを、冷静に判断していた。 「サイト、やることはわかるわよね?」 「ああ、時空怪獣はウルトマンガイアが必ず倒す。おれたちはこいつを ぶっ倒して、元の時代へ帰って、歴史を変える」 「正解、じゃあ、わたしたちをなめてくれたことを、そろそろ後悔してもらいましょうか」 喧嘩を売ってくる相手に対して、ルイズは自らそれ相応の態度で報いなかった ことはこれまで一度もなかった。圧力にせよ、脅迫にせよ、理不尽なる 服従を求めるものに彼女の誇りが屈することは決してない。今度もその 例外ではなく、彼女は、彼女の誇りと志を共に背負ってくれる頼もしい パートナーに手を差し伸べた。 「ウルトラ・ターッチ!」 光芒輝き、廃墟の街を踏み砕いてウルトラマンAが降り立つ。 さらに、ミライたちGUYSもまた別の時空、かつてエンペラ星人と 戦ったときのような、闇に覆われて廃墟と化した東京の中で、 羊のような巨大な角を持った怪獣と対峙していた。 「リュウさん、行きます!」 「ミライ」 「今わかりました。ジョージさんたちの乗った飛行機が狙われたのも、 全部は僕をおびき寄せるための罠だったんです」 「罠だって?」 「ええ、おそらくはこの未来をもたらしたい者が、邪魔となる存在である 僕らウルトラマンをおびき出して抹殺するための罠です」 ミライもまたルイズと同様に、その直感によって、この事件の裏側には明らかな 悪意を持った何者かの意思が潜んでいることに気がついていた。 「じゃあ、これはヤプールが仕組んだことなのか」 「それはわかりません。ですが、これが挑戦だというのなら、受けるまでです。 地球を、こんな姿にしちゃいけない」 ミライはリュウとテッペイに向けて強く決意をあらわにすると、怪獣へ 向かって数歩歩みだして、左手を胸の前にかざした。すると、ミライの 左腕にウルトラの父から与えられた神秘のアイテム、メビウスブレスが 現れて、ミライが右手を添えて中央のクリスタルサークルを勢いよく 回転させると、ブレスから金色の粉のような光がほとばしり、 空へ向かって高く振り上げると同時に叫んだ。 「メビウース!」 ミライの姿が金色に輝くメビウスリングの中で、ウルトラマンメビウスへと 変わって、怪獣の前へとその勇姿を現し、すばやく構えをとる。 今、三つの時空間で三人のウルトラマンの戦いが始まろうとしていた。 ウルトラマンガイア 対 時空怪獣エアロヴァイパー ウルトラマンA 対 宇宙戦闘獣コッヴ ウルトラマンメビウス 対 宇宙雷獣パズズ それぞれの未来を強き意志によって掴み取るべく、ウルトラマンたちは立ち向かう。 だがそのころ、アルビオンから遥かに離れたハルケギニアの一角で、誰も 知らないはずのこの戦いを冷ややかに見守る目があった。 「どうやら、計画も最終段階みたいですね。さて、うまくいきますかね?」 「どうでしょう、破滅の未来のビジョンを見せてあげればおとなしく滅びを 受け入れていただけるかもと思ったのですが、皆様なかなか心がお強い。 ですが、案ずることはありません。これはまだ、始まりにすぎないのですから」 大きな宮殿のような建物の中で、澄んだ少年の声と、穏やかで優しげながら 機械的で冷たい男性の声が、誰もいない聖堂の一室の中に短く響く。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神 「――あなたが仕事を成したら、おそらくわたしはこの世界から消える」 そう長門有希が切り出したのは、アーハンブラ城を望む街の湿った裏道であった。 ルイズや才人、そして誰にも代えがたい親友であるキュルケにさえも切り出さず、 タバサがトリステイン魔法学院を静かに去ってから、既に半年が過ぎようとしていた。 「ミョズニトニルン、この空間を作り出した人間は、 変化のないハルケギニアに、既に閉塞感を感じ始めている。 ガリア王に与えられた任務を失敗し、最後に残った存在理由、それがわたし。 あなたの母を取り戻せば、それはミョズニトニルンの敗北。 そして、わたしたちが負ければ、ミョズニトニルンの自意識は満たされる。わたしがあなたといられるのは、あとわずか」 普段通りの淡々とした口調で語る長門有希の背中を、月明かりが照らす。タバサはわずかに、長門有希を見やった。 しばしの沈黙の後、タバサが問う。 「ならば、……教えて。本当はなぜ、あなたが、ここにいるのか」 + + + 「わたしに僅かなエラーが発生し始めたのは、あなたと出会う半年前」 「――わたしは人間ではない。それはあなたに話した通り。 だから、有機生命体の感情の概念が、わたしに発生する筈などなかった。 でも、彼との対話を少しづつ重ねるうち、わたしを構成する有機体に、 与えられた機能を超えた部分――あなたたちの言語に翻訳すると、魂……のようなものが芽生え始めた」 「本来、わたしは与えられた命令を遂行するだけの存在に過ぎない。あなたと同じ」 「変化に気付いたのは、行動の可否の判断を、彼に委ねられたときだった」 「微小な変化。まずわたしは、それが"嬉しい"ということに気付いた」 「彼を助けること、それが彼にとっても嬉しく、わたしにとっても嬉しいという仮説を持った。 でも、すぐにそれは否定した。有機生命体が可視化した言語情報――本に創作された意識たちは、それを打算と呼んだから」 「でも」 「わたしがそのことに気付くまでの短い間に、彼に何かをしなくても、 彼のイメージを"魂"の中に認識するよう、わたしが作り変えられたことに気が付いた」 「そして、そのことを自覚してはじめて、彼のために行動すると、嬉しさだけではない、安堵感を生じるようになった」 「それは、"嬉しい"とは違うの?」 初めてタバサが問いかける。 「ちがう。わたしはそれを、"恋"と判断した。――ただし、あくまでもそれは萌芽。原初的なもの」 「恋?」 「そう。本に書かれた心理の変化のうち、わたしに新たに生じた事象は、"恋"に相当すると思われる」 「恋をしたあなたは、どうしたの」 「……何も、できなかった」 「なぜ」 「わたしが恋をした相手に、神――つまり、ミョズニトニルンもまた、恋愛感情を抱いていた。 ――わたしには、どうすることもできない。わたしが彼と結ばれることは、彼女の望まないこと」 「それでも」 「わたしは彼を忘れられなかった。だから、わたしは自身の望むように、世界を作り変えようとした――」 「世界を?」 「そう。あなたに見せたわたしの能力に似たもの」 タバサの脳裏に叔父の姿が過ぎる。彼もまた、世界を望む人間。 長門有希もまた、彼女にとって都合のよい世界を望むというのだろうか? タバサは彼女がそのような人間であることを信じたくないし、考えたくもない。 幸い、長門の独白は続いた。 「世界を変革することは簡単。でもその前に――」 「わたしにできる、精一杯のことを、彼にすることにした」 「精一杯のこと?」 長門有希は答えない。だが、彼女はタバサに視線を合わせようとしない様子から、 それ以上を話したくない様子がありありと読み取れた。 恥じらいの感情、彼女が初めて見せた表情にタバサは驚く。 タバサもそれ以上求めない。タバサ自身、自己を隠すことを友人に許されているのだ。 使い魔とはいえ、タバサも他人の秘密は最大限尊重しようと心得ている。 「精一杯のこと……。つまり――"ぴと"」 しかし長門は、自身の行動について説明する一言を搾り出した。 それは彼女にとって最大限の譲歩であった。 もう一つの決定的行動について、長門が口にすることはなかった。 「ぴと?」 タバサが問う。 「そう、"ぴと"。それが、わたしの行動。――でも、その行動もミョズニトニルンに察知されていた。 そのことで、彼女の持つ能力によって、わたしは元の世界からこのハルケギニアに閉じ込められた」 長門有希は口をつぐむ。 + + + 代わって、タバサが語る。 「――ユキ、わたしはあなたを誤解していた。 あなたをわたしと同じ、心に壁を築いた人間だと認識していた。 でも、それは違う。ユキは本物の感情を持っている」 「それに――、恋と言う感情がわたしには分からない。 わたしには、そんな感情を抱く相手がいない。これからも、ずっと――」 「違う」 長門有希が再び言葉を発する。 「あなたは本物の有機生命体。全くのゼロから感情が発生したわたしとは違う。 あなたがこれまでに得た全ての感情、それが恋に繋がる。書物だけではない、全ての経験」 「全て?」 「そう」 「――ユキの感じた嬉しさと安堵感。わたしも感じられる?」 「可能。できないはずがない」 「ありがとう、ユキ」 タバサは立ち上がり、アーハンブラ城を見上げる。 「わたしはシャルロットになる。そして、いつかわたしも――」 + + + + + + アーハンブラ城に接近すること、それ自体は難しいことではない。 幾何学模様に彩られた、エルフの築いた城塞は、ガリア王家の所有ではあるものの、 ほんの数ヶ月前までは荒れるに任され、城内は浮浪者の住処に成り果てていたのである。 タバサの母がアーハンブラ城に幽閉されているという情報を掴んだきっかけも、 廃墟であったこの城が、にわかに整備され始めたという噂であった。 かといって、王弟の妃という貴人に見合う警備体制が敷かれているわけでもなく、 明かりの灯った一角のほかには、変わらず住人が我が物顔で闊歩していた。 「こんどはわたしの番。この城には伝説がある」 突入を前にして、歩みを止めると、今度はタバサがおもむろに語り出した。 「伝説?」 「そう。三人の姫の話」 + + + ――エルフがこの一帯を支配していた頃の話。 この城には、三人の姫が閉じ込められていた。 閉じ込めたのはエルフの王。王は娘を恋から守りたかった。 彼は、恋が三人の娘を連れ去るという、占い師の言葉を信じていた。 そして三人の姫は、恋以外の全てを知って育った。 でも、ついに姫たちは恋を知ってしまった。 三人の姫が城から街を見下ろしていると、窓の下に三人の着飾った男が通りがかった。 男達は人間だった。 人間とエルフが互いを憎んでいなかった頃、互いの領域を行き来するのは普通のことだったらしい。 男達が窓の下で休息を取ったのは偶然だった。 男の一人は弁当を早く食べ終わると、楽器を取り出し、歌いはじめた。 男が歌ったのは、他愛のない恋の歌だった。 恋を歌った詩の一つも見たことがなかった三人の姫にとって、それは初めて知る感情だった。 三人の姫は、男達が去るのを見ていることしかできなかった。 でも、男達は次の日も、同じ場所で昼食を取った。 三人の姫は、今度は見ているだけではなかった。 最初に長女が、次に次女が、最後に三女が、男の歌っていた歌を、窓から男達に向けて歌い出した。 男達はすぐ歌声に気付き、城を見上げた。 やがて三人の姫のもとへ、手紙を掴んだ梟が飛んできた。梟は、男の一人の使い魔だった。 こうして三人の姫と、三人の男が出会った。 手紙を交わすうち、三人の男はそれぞれ王子で、遊学のためにエルフの領域を訪れていることが分かった。 一人はガリアの王子で土メイジ、使い魔は熊。 一人はアルビオンの王子で火メイジ、使い魔は火竜。 一人はトリステインの王子で風メイジ、使い魔は梟。 ガリアの王子は得意の錬金で姫に髪飾りを贈った。 二人は宝石の美に、一人だけが彼が錬金した彫刻の技術と知識に魅せられた。 二人は魔法の知識について手紙を交わし語り合った。彼は、知識を愛する姫と恋に落ちた。 アルビオンの王子は、三人の姫に少しでも近づこうと、城壁を登った。 使い魔の火竜で近づくのは、目立ちすぎて不可能だった。 彼は三度挑戦し、三度目に姫の元へ達した。 二人の姫は彼を無謀と罵り、一人だけが彼の勇気を称えた。 彼は、勇気を愛する姫と恋に落ちた。 トリステインの王子は使い魔の梟と視界を共有し、三人の姫を見た。 彼は、使い魔が手紙を渡したときから、最も美しい姫に恋していた。 彼がこの世で最も美しい手紙を書くと、美しい姫はそれ以上に美しい手紙を書いた。 彼は、美を愛する姫と恋に落ちた。 三人の王子がこの街を去る前日になった。 その晩、ガリアの王子がゴーレムを作り、三人の王子を窓辺に届けた。 三人の王子が三人の姫に結婚を申し込むと、 勇気を愛する姫と、美を愛する姫は、ゴーレムの掌に乗り移った。 一人だけ、知識を愛する姫だけが躊躇していた。 彼女は知識に囚われるばかりに、行動を起こすことができずにいた。 ついにエルフ達がゴーレムに気付き、ゴーレムは精霊の力で土塊に戻った。 間一髪、アルビオンの王子の使い魔、火竜が三人の王子と二人の姫を助け、 人間の領域へと飛び去っていった。 一人、知識を愛する姫だけが、アーハンブラ城に取り残された。 アルビオンの王子は勇気を愛する姫を、トリステインの王子は美を愛する姫を妃とした。 エルフの王は、占い師の予言通りになったことを悲しみ、 一人残った知識を愛する姫を、この城の外にある塔に閉じ込めた―― + + + 「初めて耳にする」 長門有希の正直な感想である。 「当然。この伝説は、ハルケギニア中でも最も危険な異端に属する。 もしこの伝説が事実ならば、王家にエルフの血が流れていることになる。 それでなくとも、ハルケギニア中が恐れるエルフと、交流のあった時代があったこと自体 ロマリアの教皇庁が全力で隠している事実」 「――知識を愛する姫はどうなったの?」 長門がタバサに問う。 「わからない。ガリアの王子と手紙を交わし続けたとも、 悲嘆に暮れて若くして死んだとも言われている。恋を知った彼女は、不幸だったかもしれない。――だけど」 「だけど?」 「わたしは恋を知ることを恐れない。 だから、ユキ、あなたも恐れないで。 ミョズニトニルンは、あなたと同じひとを愛しているかもしれない。 でも、あなたの感情とミョズニトニルンの感情に優劣を付けることなんてできない」 長門は小さく頷いた。 「――どんな王も占い師にも、わたしは縛られない」 長門有希の高速詠唱によって、灯りのついた部屋まで一直線に、通路が構成される。 + + + 二人が部屋に姿を現すと、ベッドに身を起こす人影から花瓶を投げつけられる。 「シャルロットを連れ去りに来たのでしょう!? 去りなさい、無礼者!」 しかし、タバサは母の前に跪き、 「シャルロット、母様の元へ、今、戻りました。悪夢はこれで終わりです。――ユキ、お願い……」 長門有希は掌をタバサの母に向け、高速詠唱を開始する。 しかし、今回ばかりは様子が異なった。 これまで一瞬で終わった詠唱が、普段より明らかに長く続いていることがタバサにも分かった。 その間もタバサの母は狂乱し、言語にならない奇声を上げている。 長門は一旦、詠唱を中断せざるを得ない。 「やっぱり――」 「もう少しだった。エルフによる情報操作とのせめぎ合い。 わたしには少しづつ押し切っていくことしかできない」 「母様をここから連れ出してからでもいい」 「――次はできる。もう一度、やらせて」 「わかった。お願い」 再び、長門有希の高速言語が母へ向かう。 輪を掛けて長い詠唱。 やはりエルフの先住魔法には、使い魔の情報操作でも対抗できないのか。 エルフに対し成す術もなかった、オルレアン公領の光景が脳裏を過ぎり、自然、タバサの手に汗が滲む。 しかしだんだんと、取り乱していたタバサの母の様子に変化が現れる。 奇声が止まり、目の焦点がだんだんと二人に合わされる。 そして長門が詠唱を止めたとき、母は、二人のことを静かに見据えていた。 「シャルロット――?」 「母様?」 タバサはベッドの母の胸に飛び込むと、涙を流し、心の全てを吐き出した。 それは、彼女の孤独そのものである。 長門有希は、情報操作によって部屋をハルケギニアから隔離し、自身はその狭間に姿を隠した。 本来ならば一刻も早く脱出しなければならないところだが、いかにエルフとはいえ、 空間全体を情報制御下に置けば、進入できまい。 やがてタバサは泣きつかれてか、母と寄り添って寝息を立て始めた。 この空間から出るまで、しばらく時間がかかりそうだ。 長門は気付かず微笑する。 しかし、その甘さが命取りであった。 自身の体を包み込もうとしている倦怠感、眠気のような感覚に気付く。そのときにはもう遅い。 それはまさに、彼女の体を侵食する、情報操作に他ならなかった。 タバサと母が眠りに落ちたのも同じ理由であろう。 エルフによる情報操作。 まさか、絶対の自信を持っていた空間の制御に、こうも簡単に介入されるとは。 誤算は、この空間が情報統合思念体の観測下とは物理法則の異なる、隔離された空間であることであった。 彼らにとって、ハルケギニア全体はホーム、利はエルフにある。 タバサと長門有希は、まんまとあのエルフに捕らえられたのだ。 薄れゆく意識の中、かろうじて長門は魔法学院に情報を飛ばす――。 + + + 二人のいない間に、トリステイン魔法学院も戦時体制に突入していた。 ルイズやキュルケたちも、従軍しないとはいえ、学院に派遣された軍人による教練を受けている。 その中に混じって剣の稽古を受けていた平賀才人が自室に戻ると、 机に置かれたノートパソコンの電源が入っている。 彼がパソコンの蓋を開けると、モニタは真っ黒のまま、白い文字だけが表示されていた。 YUKI.N みえてる? 「なんだこれ――、長門さん!?」 しばし呆けたあと、記された名前に気付き、キーボードを滑らせた。 『ああ』 YUKI.N わたしたちの負け。わたしにはもう、タバサを助けることはできない 『なんだって?』 YUKI.N わたしという個体は、もうすぐこの空間から消失する 『消える?』 YUKI.N 一方的な願いだと思っている。タバサを助けて。アルハンブラにいる 『長門さんはどうなるんだよ』 YUKI.N 元の世界に戻るか、完全に消失するか、どちらか 『そんな――』 YUKI.N わたしが消えたら、わたしがこの空間に及ぼした影響の大半が消える。ルイズをよろしく 『ルイズがどうなるんだ』 しかし返答はない。 「長門さん!?」 才人は思わずノートパソコンのディスプレイを叩く。 すると、思い出したように新たな文字が現れ、そしてパソコンの電源が切れた。 YUKI.N 虚無 「長門さん! ちくしょう、いったいどうしたっていうんだよ!?」 思わずパソコンに向かって叫ぶ才人。 だが、その大声は、部屋の外から聞こえた爆発音に掻き消された。 才人が廊下に出ると、ルイズの部屋の扉が吹き飛んでいる。 「ルイズ!? 大丈夫か? なにがあったんだ!」 煙が晴れると、木やガラスの破片が散乱する部屋の真ん中に、ルイズがへたり込んでいる。 「サイト……。わたし、またゼロになっちゃった……」 才人はルイズの爆発魔法を直接目にしたことはない。 それでも彼女の口から、才人と出会う直前まで、どんな魔法でも爆発する「ゼロ」だったということは聞き知っていた。 おそらくこの爆発が、彼女をゼロと呼ばせた魔法なのだろう。 そして、そのとき才人の頭を過ぎったのは、同じくルイズから聞かされていた、 彼女がアンドバリの指輪によって洗脳されていた間の体験。 そして、ルイズが本物の虚無であったという、長門有希の言葉である。 ルイズは確かに、虚無の魔法を唱えさせられたと話していた。 そして長門有希も、ルイズの虚無の力を証言していた。 最後の一押しは、今、もう一度伝えられた「虚無」。 あまりに話ができすぎている。 「ルイズ」 才人はルイズの前に座り込み、彼女と目線を合わせる。 「ゼロなんかじゃない。ルイズは本当の系統に目覚めたんだ」 「ありがとう、サイト。でも、慰めなんかいらないわ」 「慰めなんかじゃない。ルイズ、前に虚無の魔法について話したよな?」 「え、ええ」 「試しにそれを唱えてくれ。部屋が吹っ飛ばないくらいのを」 「まさかわたしが虚無だっていうの? 出任せにも程があるわ」 「俺が今までに、ルイズに嘘をついたことがあったか?」 「ええ、あったわ。あのメイドとイチャイチャして――」 「それは悪かったと思う。でも、ルイズを思う俺の気持ちは本物だ。 ――俺が本当にルイズを好きになる前、ルイズを尊敬していたのは、 ルイズが本物の貴族でメイジだったからなんだ。 今一度でいい、俺に初心を思い出させて、 ルイズ以外の女の子を忘れさせるために、ルイズの魔法を見せてくれないか?」 「……なによ、芝居がかって気持ち悪い。でもいいわ、一度だけよ。爆発するでしょうから離れてて」 ルイズが唱え始めたルーンは、虚無の魔法、イリュージョンのものだった。 単語の一つ一つが才人に心地よさを覚えさせ、ガンダールヴのルーンが光り輝く。 ルイズもまた、以前エクスプロージョンを唱えようとしたときとは違う、 体の中にある力の流れが、一方向に放出されるような感覚を覚える。 ルイズが詠唱を完成させると、二人の間には、光とともに人間の像が現れる。 それは、白銀の鎧に身を包み、デルフリンガーを構えた姿の平賀才人であった。 「わ、わたしったら、なにあんたのこと思い浮かべてるのよ! えいっ、えいっ、消えて!」 ルイズの言葉に従い、虚無の虚像は音もなく消える。 「ルイズ……、今の俺、なんか表情が……。お前の頭の中じゃ、俺ってあんな風に見られてたのか」 「な、なんにも聞こえないわ。今のは事故よ、事故」 顔を赤らめ下を向くルイズ。 しかし才人は、そんな彼女を優しく抱きしめた。 「でも、ありがとう。何も言われてないのに、使い魔の姿を思い浮かべるなんて、そうそうできやしないぜ」 「恥ずかしいからそれ以上言わないで――」 「それに、虚無の魔法が使えたじゃないか。ルイズはゼロなんかじゃない。 四系統を使いこなす天才でもない。伝説――だったんだ」 「――わたしが、虚無」 「ああ。……だけど、どうなっちゃうんだろうな、俺たち。伝説だぜ――?」 前ページ次ページ雪と雪風_始祖と神
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 03.明日ハレの日、ケの昨日(*1) その年の召喚の儀式は、初めは例年のように進行していた。生徒達の召喚呪文に よって、普通に使い魔として見かける生き物達が召喚される。猫やカラス、蛇に フクロウ。特殊なところでは風竜が呼び出され、周囲を驚かせたくらいだ。 しかし、ある男子生徒の召喚から状況が一転する。彼のところに現れたのは、 何と妖精だった。身長七十サントほどのそれは透明な羽を持ち、何より人間の 言葉で挨拶をしてきたのだ。 初めはエルフの類かとも思われたのだが、その愛らしい笑顔が周囲を魅了した(*2)。 聞けば、特別なことは何も出来ない(*3)という。それでも、召喚した男子生徒は 得意満面で妖精とコンタクト・サーバントを行った。風竜には敵わないけれど、 それでも十分特殊な生き物だ。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、というでは ないか。今はただのドットクラスだけれど、きっと自分には秘められた力があるに 違いない――。 残念ながら彼のその希望は儚くも砕かれることになる。次々と呼び出される 妖精達。先ほどの妖精を羨ましそうに見ていた生徒達が一転、今度は嬉しそうに 契約をしていく。 そして毛色の変わった生き物が呼び出されはじめた。基本的に人間の姿をして いるものの、鳥の様に翼があったり、虫の触角が生えていたり、猫の尻尾が二本 生えていたり、捻れた角が生えていたりと様々である。ただ共通しているのは、 みな女性――それも少女と言っても良いような年頃の姿をしていること。そして みな知り合いだということだ。 彼女たちは自分たちのことを『ヨーカイ』なのだと話した。妖精とは比べものに ならない力を持っており、契約すれば使い魔として働くという。 「まあ妖怪って基本的に、人を襲って食べたりするんだけどね。でもそれはそこの 大きいの(*4)だってそうでしょ? 大丈夫大丈夫、使い魔として呼び出されたん だから、ちゃんと使い魔をするよ」 角の生えた少女――自らを伊吹萃香と名乗った――は笑顔でそういうと、腰に ぶら下げた奇妙な形の入れ物を口につけた。ゴクゴクと喉が動き、プハァと息を 吐き出す。酒臭い。それを見た召喚主は、コンタクト・サーバントしただけで 酔っちゃいそう、と現実逃避気味に考えていた。本当は考えなければならない ことは他に沢山ある。どういう種の生き物なのか。何が出来るのか。自分の 専門属性は何になるのか。そして、コンタクト・サーバントをすべきか否か。 彼女は助けを求めるように、引率の教師を振り返った。 召喚の儀式は神聖なものであり、契約は絶対のもの、とはいうものの、引率の 教師であるコルベールは内心頭を抱えていた。敵意はない。自分たちから進んで 使い魔をやるという。その点はとても望ましいことだ。しかし、自分の中の何かが 危険信号を発している。これは危険な生き物だ、と。 結局彼は、召喚と契約の続行を決めた。召喚の儀式で使用される、魔法に対する 信頼があるからだ。また今までの記憶にも記録にも、召喚した生き物が制御 できなかったということはない。 彼女は諦めて、自分の呼び出した酒飲みとコンタクト・サーバントを行った。 案の定、酒臭い。眉をしかめる様に気づいた様子もなく(*5)、萃香はどこから ともなく取り出した茶碗に酒をつぐと、召喚主に向かって差し出した。萃香達の ところでは、主従関係を結ぶ場で酒を飲むしきたりがある(*6)、という。匂いを 嗅いだだけでも、かなりアルコール度数が高いことが分かった。彼女たち貴族も 一応普段からワインを嗜んでいるが、それは様々な香料を入れたり甘みをつけたりと アルコール度を薄めたものを少し飲むだけだ。ここまで度数の高いものをそのまま 飲んだことはない。それでも彼女は、その酒を一息に呷った。使い魔になめられる わけにはいかない、と思ったのかどうか。しかし彼女は茶碗を手から取り落とし、 目を回して倒れ込んだ。地面にぶつかる前に、彼女の使い魔となった萃香が軽々と 彼女を抱え、ゆっくりと地面に寝かせてやった。そして手を叩き笑う。 その心意気は見事、と。 それを見ていた他の妖怪や妖精も、手に手に湯飲みや茶碗を取り出した。 そして自分の召喚主に対して笑いかけた。さあ、私たちも、と。こうして召喚の場が 宴会場へと変わっていくのであるが、未だ召喚を行っていない者達には それどころではない。なにしろ次に呼び出された生き物は、今までとは段違いに 危険だったのだから。 背格好自体は十歳に満たない少女の様。日傘を差し、背中には蝙蝠のような羽、 笑った口元には牙のような犬歯が見える。彼女は辺りを見回すと、威厳に満ちた 口調で言い放った。 「私はレミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼の貴族。 さあ、私を召喚した幸運な子は誰?」 「吸血鬼!」 コルベールは油断なく杖を構えると、レミリアに相対した。彼の知っている限り、 吸血鬼などといった人間に敵対する知性体が召喚されたことはない。 「吸血鬼が一体どうして召喚されたのだ?」 「もちろん、使い魔をするためよ」 そこの連中と同じよ、と酒を飲んでいる妖怪を指さした。指された方は笑って 手を振り返す。 「いや、私が聞きたいのはそういうことではなく……」 「何故、こんな得体の知れない連中が大量に召喚されてるのか、ってこと?」 「……まあ、そんなところだ」 明らかな敵意を向けられてなお、レミリアは悠然と笑い言い放った。 「後に召喚される妖怪の中には、説明が得意なのもいるわ。 彼女達に聞いてちょうだい」 知識人っぽいのとか、家庭教師っぽいのとか、と含み笑いをするレミリア。 「後に……ということはまだ君たちのような人外が呼び出されるというのか?」 「そうよ。まあ、その中でも私が一番(*7)だけど」 何が一番(*8)なのやら、と妖怪連中から戯れ言が飛ぶが、一睨みで黙らせる。 「むやみに人間を傷つけるつもりはないわ。貴族の誇りにかけて、ね」 貴族の誇りを出されてしまっては、人間達も黙るしかない。それに納得も していた。人間にも平民と貴族がいるように、吸血鬼にも普通の吸血鬼と高貴な 吸血鬼がいるのだ、と。粗野な平民と違い、貴族には礼儀と誇りがあるものだ。 それは、吸血鬼でも変わらないのだろう。 コンタクト・サーバントを終わらせると、レミリアはニヤリと牙を見せて笑った。 「吸血鬼に相応しい主人にしてあげるわ」(*9) レミリアを呼び出した女生徒は、顔色を青くしながらも頷いた。普通の下級貴族で ある自分にそんなことが可能なのか。いや、やるしかないのだ。吸血鬼を使い魔に した貴族など、きっと後世にも名前が残るだろう。貴族にとってそれはこの上も ない名誉なことである。 こうして召喚の儀式は継続された。レミリアの言ったように、それからも様々な 妖怪が呼び出される。中には、どう見ても人間にしか見えない者達もいた。 例えばキュルケが呼び出した者は、自らを蓬莱人だと名乗った。それが何を 意味するかは不明だったが、少なくとも彼女は炎を操ることが出来た。呪文も なしに火を生み出す様に精霊魔法なのか、と騒然となったが、当の本人は至って 平然と答えた。 「そこの大きいのだって火を吐くんだろ(*10)? まあそれと同じようなもんさ」 それに精霊魔法は、その地に存在する精霊と契約して発動する魔法。逆に言えば、 契約をしなければ発動できない。召喚されたばかりの彼女に、そんな時間や呪文の 詠唱はあったか。答えは否だ。 それでも、いきなり彼女のような存在が呼び出されていれば、また話は違った だろう。魔法を使わずに特殊なことが出来る者に対する偏見は大きい。だが今回の 召喚の儀式では、妖精に始まり吸血鬼まで、特殊な生き物が数多く呼び出されている。 さすがに人間達も感覚が麻痺してきていた。慣れてきた、とも言える。 その最たる例として、自らを神と称する者が召喚されたが、比較的スムーズに コンタクト・サーバントまで至っていることがあげられるだろう。 「神って言うけど、こっちの世界じゃ精霊みたいなものかね」 背中に縄を結ったような飾りを付けた(*11)女性は、そう言いつつどっかりと 腰を下ろした。 「なにしろ今までいたところには、神様が八百万もいたからね。こっちは神様は 一人なんだろ?」 彼女を召喚した男子生徒は、どう返答したらいいのか分からず、とりあえず頷いた。 この世界の神と言えば始祖ブリミルということになるのだろうか。もちろん、 神聖な存在であり、威厳があって厳かな存在なのだろうと思っている。しかし……。 ちらりと横を見る。そこではやはり神を自称する少女が、召喚主の女生徒に後ろから 抱きつかれて困っていた。 「あーうー、私は神なのだぞー」 「か~わい~」 蛙を模した帽子をかぶった少女は手足をばたばたさせるが、威厳の欠片もない。 どういう経緯でこうなったのかは彼にも分からなかったが、可愛いことは確かだ。 「あははは、土着神の頂点も形無しね、諏訪子」 「そう思っているなら助けてよ、神奈子」 それも親交(*12)よ、と取り合う様子もなく、神奈子はどこからともなく盃を 取り出した。同じく、どこからともなく取り出した瓶から何かを注ぐ。言うまでも なく、酒だ。 「さあ、私たちもやろうじゃないの」 確かにもう辺りは、酒を飲まない方が不自然な状態にまでなっている。 楽器ごと宙に浮いた三人組が音楽を奏でると、翼を持った少女が歌を歌う。 やたら偉そうな妖精が空中にダイアモンドダストを発生させると、別の妖精が 輝きを集めて虹を作る。幻の蝶(*13)や見たこともない赤い葉っぱが辺りを舞い、 どこかに消えていく。ついでにコルベールはしきりに頷きながら、奇妙な帽子を かぶった者から話を聞いている。制止役がこれでは、騒ぎが収まるわけがない。 これは酒でも飲まないとやってられない。彼は神奈子から杯を受け取ると一気に 呷った。奇妙な味だが悪くない。 最初の爆音が響いたのは、ちょうどその位だった。 生徒達はその音に振り返り、ああ、あいつか、と呟いた。ゼロがまた魔法を 失敗した、と。 「ゼロ?」 その声に一人の少女が反応した。紫色のゆったりとした服(*14)に身を包んだ 自称魔女は、視線を自分の召喚主の男子生徒へと向ける。その全てを見通すかの ような視線にたじろぎながらも、彼は問いに答えた。 「あいつは魔法を成功したことがないんだ。だからゼロ」 彼が指さす先で、一人の女生徒が杖を構える。他の生徒に比べ、幾分幼い感じが する少女は真剣な面持ちでサモンサーバントの呪文を唱え杖を振った。が、 二度目の爆音が響いただけで、何も召喚されない。 なるほど、と彼女は頷くと感想を述べる。 「ふーん。零点ね」 「そうさ。零点――」 しかし魔女は召喚主の口をふさぐかのように指を伸ばした。 「零点なのはあなたよ」 「は?」 呆けたような顔を面白くなさげに一瞥すると、魔女は少し大きな声で説明を始めた。 「費やされた魔力のうち、サモンサーバントの分は正しく消費されてるわ。 あの爆発は余剰分が行き先をなくして発生しているだけ」 「まさか。だいたい何でそんなこと――」 わかるんだよ、と続けようとして、ジロリとにらまれる。 「貴族の合間にメイジをやってるあなた方には分からないかもしれないわね。 だけど私は生まれたときから魔法使いなのよ。言葉を話すより先に魔法を 使っているの」 魔法の動きを知るなんて呼吸をするのと同じ事よ、とつまらなそうに言うと、 手に持った本に視線を落とした。この世界は発動体が必須とされるようなので、 常に持ち歩いているこの本が発動体だと言うことにしてある。別に嘘だという わけではない。上級スペルを詠唱する際には、一部の負担を本に蓄えた魔力で 代替わりしているのだ。疲れないために。 しかしこの世界の魔法は彼女の知っているそれとは全く違う。呪文はあくまで キーワードでしか過ぎない。もちろん各自が持っている魔力は消費されているが、 消費分に対して発動される内容が高度なのだ。大体、この程度の魔力消費で空間を 転移するゲートを開けるなど、彼女の常識からすれば冗談の様である。まるで、 合い言葉を唱えると、世界そのものが魔法を発動しているかのようだ。 この魔法はどのような原理で構築されているのか。これからの研究対象を考えると、 彼女は興奮を覚えるのだった。なぜなら彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。 知識こそが彼女の生き甲斐なのだから。 「で、でもさ、じゃあなんで何も召喚されないんだよ」 本に向かって顔を伏せたまま、上目遣いにルイズを見ると、このやり取りが 聞こえたのか当のルイズと目があった。絶対に諦めない、という眼差し。 その視線に知り合いだった人間を思い出す。彼女もよくこんな目をしていた。 普通の人間の魔法使いだったくせに。いや、だからこそ、か。 そんなことを考えていると、再び爆音が轟いた。 「ふん、やっぱり失敗は失敗だよな。あいつはゼロなんだから」 「……零点。おめでとう、これでダブルゼロね。ダブルオーの方がいいかしら」 「なにーっ」 最近流行だったみたい(*15)だし、などとよくわからない解説が追加される。 「なぜ召喚されないのか、ということを考えず失敗と思考停止するのは、 愚か者のやることよ」 「僕が愚か者だって――」 「違うというなら考えてみなさい」 ピシャリと言い切られ、歯がみをして悔しがる。なんで僕は使い魔にこんな 言い込められないといけないんだろう。こんなことなら普通の動物がよかった。 と数分前とはまったく逆のことを彼は考え始めた。そんな様子を歯牙にもかけず パチュリーの考察と解説は続く。 「サモンサーバントで発生するゲートは、強制的に相手を転送させるものではないわ。 対象となったものが触れて初めて効果を現す。逆に考えれば、触れなければ 召喚されないという事よ」 「……じゃあ、触ろうかどうしようか迷ってるっていうのか?」 「そうね。意図的に触れずにいることを選択しているのかもしれないし、 何らかの事情で触れられない状態になっているとも考えられる――」 少し離れたところでそのやり取りを聞いていた狐の妖怪、八雲藍は、口元に 笑みを浮かべ呟いた。紫様も人が悪い、と。 もうほとんどの生徒は召喚を終えている。見回したところ、幻想郷にいた妖怪は 一人を除いて全員召喚されているようだ。その残った一人こそ、八雲藍の主人であり 幻想郷の賢者といわれた八雲紫。少々戯れに過ぎるのが玉に瑕。今回もその戯れだと 思ったのだ。 「紫様を使い魔にするのだ。これくらいの苦労は越えられねばな」 早々に酔いつぶれてしまった自分の新たな主人に膝枕(*16)をしながら、藍は しみじみと呟いた(*17)。 そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚魔法 失敗が二十回を超え、儀式の場はますます盛り上がっていた。 「さあ、次の呪文で召喚できたら、銀貨一枚につき二枚払うよー」 頭から兎の耳が生えた妖怪が、賭け事を始めている。 「人の失敗を賭に使うなーっ!」 ルイズの怒声もなんのその。生徒達や妖怪達が、おもしろ半分に賭け金を出し 始めた。 「あんた達も賭けるんじゃないわよっ!」 手に持った杖を突きつけるルイズだったが、次で召喚すれば問題ないでしょ、 と笑って返され二の句が継げなくなる。どうやらみな、酷く酒に酔っているらしい。 一体どうしてこんなことになったのだろう? もちろん答えは決まっている。 このヨーカイといかいう連中の所為だ。でもその一人がさっき言っていた。 魔法自体は成功している、と。本当のことかどうかは分からない。けれど、 今のところ縋ることの出来る唯一にして最高の言葉だ。だから自分は魔法を 唱え続ける。続けられる。 そんなことを考えながらも呪文を唱え、杖を振った。が、爆発。また失敗だ。 賭けた者からは罵声が、賭けなかった者からは歓声があがる。 「じゃあ次は銀貨一枚で、銀貨三枚ねー」 兎の声に、先ほどより多くの賭け金が集められた。思わず怒鳴ろうとしたが、 よくよく考えれば賭けるということは、召喚の成功が、つまり魔法の成功が 期待されているということだ。酔っぱらい共の戯れだとしても少しだけ気分が良い。 詠唱、そして杖を振り……また爆発。何も現れない。汗が目にしみる。まだまだ 諦めるには早すぎる。 集中、詠唱、杖、爆発。一体何が召喚されるというのだろう。 深呼吸、集中、詠唱、杖、爆発。もう周囲が騒ぐ声も気にならない。 「そう。重要なのは集中することよ」 その様子をじっと見ていたおかっぱ頭の少女が呟いた。背中には二本の刀、 隣には半透明な物体がふわふわと浮いている。半分人間である彼女は、努力して 技術を習得するということを人の半分程度は慣行している。だから、周囲の声にも 拘わらず召喚呪文を唱え続けるルイズという少女を、彼女は内心応援していた。 もっとも、彼女の主人はそうとは思っていないようだが。 「無理だと思うんだけどな」 「何故?」 鋭い視線で見つめられ、腰が引けそうになる。背の武器で斬りつけられたら…… と思うと気が気ではない。コンタクト・サーバントは終わっているので危害を 加えられることはないだろう、とはいうものの、やはり怖い。もちろん、その前に 魔法で何とか出来るとは思うが…… 「ダメよ~、妖夢。ご主人様が怖がっているじゃないの」 「何を言うんですが、幽々子様!」 「あらあら、怖い怖い」 突然横から現れた女性は、広げた扇子で口元を隠すと含み笑いを漏らした。 「妖夢は真面目すぎるのよ」 「性分ですから」 憮然として答える妖夢。その様子はまるで教師に叱られた生徒のようであり、 現役の生徒である彼女の主人は不意に親しみを感じた。 「もっとこう、余裕を持った方がいいと思うのよ」 「幽々子様は余裕がありすぎです!」 「そうねぇ。でも『今の』ご主人様は真面目な人みたいだし、 従者が余裕を持たないとね~」 その言葉に妖夢はハッとさせられた。なるほど、従者とは主人を補う者だ。 幽々子様の下では今までの自分でよかった。しかし新しい者の従者になるという ことは、自分も変わっていかなければならないのではないか。 「……努力します」 「そうそう。変われる、というのは人間の特権ですもの」 再び口元を扇子で覆い、笑い声を漏らす。その言葉は、果たして誰に向けられた ものか。 そんな周囲の会話ももはや聞こえる様子もなく、ルイズの召喚失敗は回を重ねる。 兎の賭の倍率が十倍にもなり、辺りが夕日に包まれてもまだ召喚は成功しなかった。 肩で息をする。喉も渇いた。魔力が尽きかけていることが、自分でも分かった。 これで最後にする。そう気合いを入れ、呪文を唱えた。そしてイメージする。 自分が最高の使い魔を使役している姿を。 「!」 杖を振ると共に起きる爆発。だがその中に、人影が見えた。 「おや……?」 その姿に真っ先に反応したのは藍。なぜならその容姿が彼女の想像と違って いたからだ。片手には日傘。これはよい。髪の色は金色。これも想像通り。 だが頭には黒いとんがり帽子を被り、黒い服の上に、白いエプロン。ドロワーズも 露わについた尻餅の下敷きになった箒。これではまるで、知り合いの魔法使いの ようではないか。その人間の名前は―― 「魔理沙っ!」 何人もの妖怪が叫んだ。疑惑に満ちた声で。単純に驚きで。喜びをにじませて。 嫌そうな声色で。溜め息と共に。 静寂の中、呼ばれた本人はゆっくりと立ち上がるとスカートに付いた土埃を払う。 そして不貞不貞しく笑みを浮かべると、口調だけは残念そうに第一声を放った。 「くっそー、ついに捕まっちまったか」 「ついに……ってどういうことよ」 その魔理沙の正面に立つ少女、ルイズ。杖を構え、肩で息をする様を一瞥し、 魔理沙は納得するように二度三度と頷いた。 「ん、ああ、あんたが私を召喚したのか。よろしくな。勝負に負けたんだ。 潔く使い魔になってやるぜ」 「ししし勝負ってなんのこここことかしら?」 あくまで冷静な魔理沙に対し、ルイズは興奮のあまり口が回っていない。 「根比べさ、召喚の。あんたが私を捕まえるのが先か、魔力が切れるのが先か。 寿命まで無料奉仕してやろうってんだ。これぐらいは試させてもらわないとな」 「じじじ寿命ですって?」 「ああ、私はこいつらと違って、普通の人間だからな」 周囲に座った妖怪を指さしながらの言葉。普通の、人間。その意味をルイズが 理解できるより先に、周囲が反応した。 「普通の人間って事は平民か?」 「なんだ、これだけ大騒ぎして結局普通の平民かよ」 「これって失敗だよな!」 「やっぱりゼロのルイズね」 いつも通り巻き起こる嘲笑。肩を落とすルイズ。よりにもよってただの平民とは。 また失敗なのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。例えそれが強がりと 見られようとも。ルイズは顔を上げ、言い返そうとした。いつものように。 しかしルイズより先に、目前に立った少女が大声を上げた。 「ああ、そうだ! 私は霧雨魔理沙! 普通の人間だ!」 ルイズに背を向け、ルイズを守るように、霧雨魔理沙は立っている。 「だがなっ!」 だからルイズだけは気がついた。他の人間から隠すよう背に回した右手に、 光が集まっていることに。 「普通の人間の……魔法使いだぜ!」 そういうなり、右手の光――魔力塊を真上に向かって打ち出した。 一瞬の静寂。そして閃光。 まるで花火のように、光り輝く星屑が夜空に広がる。きらきらと輝くそれは 幾何学的な模様を徐々に変えながら、ゆっくりと広がっていく。 「わぁ……」 其処此処から感嘆の声があがる。四つの系統のどれにも属さない魔法。しかし 誰もそのことを言い出さない。 それほどに美しかったのだ。 そして何が起こるかうすうす感づいている妖怪連中は、にやにやと笑っていた。 人に馬鹿にされてただで済ますほど、霧雨魔理沙という人間は温厚ではないのだ。 「おっと、ちょっと魔力を調整しそこなったぜ」 わざとらしい声とともに、上空に広がった七色の星屑が一斉に地面目がけて 落ちてきた。(*18) そりゃあもう、唐突に。 「うぉあっあたる、あたる!」 「馬鹿っこっちくるな!」 「いやーっ」 「ブリミル様、お救いをーっ」 右往左往した挙げ句、互いにぶつかって倒れてみたり。地面に伏して祈ってみたり。 そんな様子を、魔理沙の召喚主であるルイズは唖然として眺めていた。 普通の人間? 魔法使い? 先住魔法? 星屑? 自分は一体、何を呼び出したんだろう? 「あー、別に危険じゃないぜ。ちゃんと消えるし」 その声にルイズが顔を横に向ける。いつの間にかルイズの横に並んだ魔理沙は、 困惑したという口調で嘯いてみせた。 事実、それは地面に一つも届いていない。流星の様に落ちてきた星屑は、最初から 幻であったかのように、中空で溶け込み消えていく。その様子もまた幻想的で、 混乱していた生徒達は徐々に呆けたように空を見上げていった。 一方妖怪達は、いつもの宴会芸に大喝采である。やはり酒の席にはこの花火が ないと始まらないとばかりに再び音楽が始まり、静寂が一転、喧噪に包まれる。 「さて、と」 そんな様子に満足したのか魔理沙は、ルイズを見るとウインクして見せた。 「契約をしなきゃなんないんだろ?」 言われて思い出す。そういえばまだコンタクトサーバントを行っていない。 「さっさとやろうぜ。せっかく注目を外したんだしな」 「注目を……?」 おうむ返しの質問。頭が混乱して、考えがまとまらない。 「いくら女の子同士でも、人の注目浴びながらキスをするのはちょっとな」 ファーストキスだからな。と帽子を目深に被りなおしながらつぶやく。 その頬が夕日の下でもそれと分かるほど赤く染まっていることに、ルイズは 気がついた。普通の人間で、魔法使いで、先住みたいな魔法を使って、でも、 中身はルイズと同じ少女なのだ。 そのことに気がついたルイズは、ようやくいつもの調子を取り戻した。 「感謝しなさい。わたしみたいな貴族の使い魔になれるなんて、名誉なことなんだからね」 胸を張り宣言する。その様子に魔理沙は、ニヤリと笑い言葉を返す。 「さすが私のご主人様だ。そうこなくっちゃな」 こうして、魔法が使えない貴族、ルイズと、魔法が使える普通の人間、魔理沙は コンタクト・サーバントを行ない、主従となったのであった。 そして二時間後。月明かりの中、ルイズは目を回して倒れていた。別にルイズに 限ったことではない。多くの生徒はルイズ同様、召喚の儀式が行われた草原に制服の まま倒れ伏している。 全ての原因は魔理沙だ。コンタクト・サーバントが終わるとルイズの手を引いて、 妖怪達の宴会に飛び込む。ここまではいい。自分が酒を飲み、ルイズにも酒を飲ます。 これもある意味当然の流れだ。だけど言ってしまったのだ。「さすが私のご主人様だ、 いい飲みっぷりだぜ」と、他の生徒を挑発するように。その結果がこれだ。 「みんななさけないわね」 余裕を装うキュルケも、目が虚ろ。手に持ったグラスは今にも滑り落ちそうだ。 ルイズより先に酔いつぶれるわけにはいけない、と半ば意地で意識を保っていた ものの、そろそろ限界らしい。自慢しようにも当のルイズはさっさと潰れている。 その使い魔は、狐っぽいのと日傘を挟んで深刻そうな話をしている。さあどうしよう。 その揺れる視線が親友の姿を捉えた。青い髪を持った小柄な少女、タバサ。 いつものように本を開いてはいるが、遠い目をして何か呪文のように呟いている。 ずりずりと膝立ちで近づいたキュルケのことも、目に入っていない。 「…………」 「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ」 「亡霊だから幽霊じゃない…… 騒霊だから幽霊じゃない…… 半人半霊だから幽霊じゃない…… 亡霊だから――」(*19) 「ねえ、タバサ~」 反応のないタバサに業を煮やし、何気なく肩に手を掛ける。が、ビクン、 と一瞬背筋が伸び、こてんと倒れてしまった。 倒れてしまった親友を一人寝かしておく訳にはいかないわよね、とようやく 理由が出来たキュルケは、タバサを抱きしめるように横になり、自分の意識を 手放すことが出来たのだった。 一方タバサの使い魔となった風竜――もちろん実際には風韻竜なのだが―― のシルフィードは、そんな主人の事も気づかずに、他の使い魔達との会話に 夢中だった。他の使い魔とはいっても、妖怪が主である。それも特に、幼い雰囲気の 連中だ。 「きゅいきゅい!」 「へえ、一人で二百年も」 「きゅいきゅい」 「へーそーなのかー」 「きゅいきゅいきゅい」 「うんうん、その気持ち、よく分かるよ……あ、八目鰻、食べる?」 「きゅい!」 「えへへ~おだてても何もでないわよ~」 「みすちー、私のはー?」 「もうとっくに食べちゃったでしょ?」 「きゅい……」 「あー、いいのいいの、こいつが食いしん坊なだけだから」 「ひどいよー、そんな嘘、言いふらさないでー」 「そうそう、食いしん坊と言ったらやっぱり、アレよね」(*20) 「きゅい?」 まだまだ話は尽きそうもなかった。 脳天気な話をしている連中もいれば、ただ杯を傾けている連中もいる。 蓬莱山輝夜と八意永琳、そして鈴仙・優曇華院・イナバは、言葉少なに月を 見上げていた。 「イナバが二つに見せてるんじゃないの?」 波長を操作できる鈴仙なら、光を操作して一つのものを二つに見せることなど 雑作もない。 「姫様が一つ増やしているんじゃないですか?」 先日の夜が終わらない騒ぎの元凶は、輝夜が作り出した偽物の月である。 二人そろって盃を干すと、大きな溜め息をついた。そんな二人を照らす月も、二つ。 「確かに世界が違えば、月が二つあってもおかしくはないのでしょうけどね」 永琳も、遅れて溜め息をついた。 「本当にあなたたちって、違う世界から来たのね」 永琳の主人が口を挟む。言葉の意味に気がついたから。 「それにしては驚いてないのね」 「もう驚き疲れちゃったわよ」 大体なんで貴族である私が、夜の野外に酒盛りなんてしないといけないのかしら、 それも地面に座り込んで、などとブツクサ呟きつつ、盃を傾けた。そしてちらりと 斜め向こうを見る。そこでは彼女と付き合っているキザっぽい少年が、自分の呼び 出した使い魔に何かを囁いていた。あんな光景を見せられたら、酔うに酔えない。 うふふ、という笑い声にキッと使い魔を睨むが、永琳は嬉しそうに笑うばかりだ。 「若いっていいわね」 しばらく睨んだ末の言葉がこれだ。色々とやるせなくなって、永琳の主人である モンモランシーは一息に盃を干したのだった。 一方、そのキザっぽい少年の使い魔となったアリス・マーガトロイドは、安堵の 溜め息をついていた。やっと酔い潰せた、と。 基本的には悪い人間ではないと思う。選民思想が少々気になるが、まあ特権階級の 子息ならこんなものだろう。服装のセンスが悪いのも、多分なんとかできる。 だが、語彙の乏しさはなんとかならないものか。延々と同じ口説き文句を 聞かされると、最初いい気分だっただけ落差が酷い。 「?」 そうして落ち着いてみると、なにやら視線を感じる。月の姫達と共にいる少女が なにやらこっちを見ているようだ。アリス自身がそちらを向くと見ていないフリを するが、周囲の状況は腕にさりげなく抱えた上海人形により、常に把握している。 人形の目は彼女の目なのだから。もっとも、状況自体はわかっても、それが何を 意味するものなのかを推測するには、アリスには経験が足りなすぎた(*21)。 特に男女間の人間関係における心情については。こうして今しばらくの間、アリスは 据わりの悪い思いをするのだった。 一方、そんな状況を早速手帳に書き留めている者もいる。 「『三角関係勃発か?』 ……うーん、 『主人と使い魔の恋は成り立つのか?』 の方がいいですかねえ」 「アヤ、今度は何を書いてるの?」 問うたのは彼女の主人。ポッチャリとした体型の彼は、先ほどまで使い魔の 射命丸文から質問責めにあっていたのだ。律儀に使い魔からの質問に答えて いたのは、時に鋭くなる言葉の槍が、妙に心地よかったから。 「ふふふ、秘密ですよ」 そんな文の不敵な笑みもまた、彼の心を撫で上げるようである。これって もしかして恋なのかな?(*22) などと考えるマリコルヌ少年が、自身の性癖に 気がつくのはもう少し先のことである。 一方、文はそんな主人の様子よりも、目の前で起きている出来事の方が重要だった。 そこでは唯一使い魔となった人間、霧雨魔理沙と、主人達の教師であるコルベールが 興味深い話をしていたのだ。先程の藍と魔理沙の会話も興味深いものだったが、 こちらの話もまたそれに劣らず面白そうだ。 「ほう、変わったルーンだ」 「ふーん、そうなのか?」 コルベールに言われ自分の額を撫でる魔理沙。コンタクト・サーバントにより浮かび 上がる使い魔のルーンが、魔理沙は額にあった(*23)。月明かりの下、手元の本を 広げるコルベール。誰からもらったのかそれは、幻想郷縁起(*24)であった。苦労して 魔理沙のページを探すと、そこにルーンの形状を書き込んでいく。 「しょうがないなぁ」 そんな魔理沙の言葉と共に、辺りが明るくなる。見上げれば、本の上に明かりが ともっていた。星も集まれば、月よりも明るい。その輝きをしばし見つめた コルベールは頭を振ると、魔理沙に問いかけた。 「それは一体どういうものなんだね?」 「星の魔法だぜ」 さも当然だと言わんばかりの返答に、コルベールは再度頭を振った。 この世界で人間が使う魔法と言えば、四つの属性に分類されるものだ。例外として コモンマジックと、伝説と言われる虚無。しかしこの魔法は、そのいずれにも該当 しないものだ。いや、少なくともコモンマジックと属性魔法には該当しない。では虚無 魔法か? いや、あれは遠い伝説のものだし、そもそもこの人間は、杖を使ってすら いない。では先住魔法か? いや、彼女は人間だ。それは間違いない。マジック アイテムを所持しているものの、自身は普通の人間であることは、ディテクトマジックで 確認済みだ。ならばそのマジックアイテムの力なのだろうか? コルベールは使い魔の印を書き写す作業に戻りながら、考えを巡らす。それを 知ってか知らずか、さらにコルベールを混乱させる事を口にする。 「他には、恋の魔法とかもあるぜ」 「は?」 「ま、星も恋も、遠くにあって憧れるものさ」 何かの聞き間違いかと思った。今、恋、と言ったのだろうか? どこか遠い目をしてのその言葉に、コルベールは聞き返せなかった。いずれ詳しい 話を聞く機会もあるだろう。彼は三度頭を振ると、本を閉じた。 「ん、終わりか?」 「うむ、これは後日、調べることにしよう。 それより一つ、聞いておいて欲しいことがある」 「あー?」 聞き返す魔理沙は十分に酔っているように見える。これから話すことを覚えて いてくれるかも怪しい。それでもコルベールには伝えておきたいことがあった。 「他でもない、君の主人となる者のことだよ」 当のルイズは、魔理沙の脇で横になり、寝息を立てている。その寝顔がどことなく 微笑んでいるように見えるのは、うがちすぎであろうか。 「もう知っているかもしれないが、彼女――ミス・ヴァリエールは、 魔法が使えないのだ」 「でも、私を呼び出したぜ?」 「ああ。だが明日以降も魔法が使えるかどうかはわからない。 今回が特別なのじゃないかとも思う」 もちろん、そうでないことを願うがね、という言葉とは裏腹に、コルベールの顔は暗い。 「ははん。だから面倒を見ろって?」 「そういうわけではないが……覚悟して欲しい、ということだ」 「ふん、覚悟か。 そんなのは、この世界に来ることを決めた時に、とっくに終わってるぜ」 魔理沙は手に持った茶碗に残った酒を一気に空けた。 「なにしろ私は、普通の人間の魔法使いだからな」 そういうと、おーい、酒が切れたぞー、と傍らの集団に声をかけた。コルベールが 何か言うより早く、新たな酒が魔理沙の茶碗に注がれる。ついでにコルベールの 手にも、コップが持たされた。 「お、おい、私が飲むわけには――」 「まぁまぁ、そういいなさんな。これからも長い付き合いになるんだしさ」 傍らに巨大な鎌を置いた女性が気軽に肩を叩き、コップに酒を注ぐ。その容姿に、 コルベールの相好も思わず崩れる。彼とて木石ではない。女性に酌をされれば それなりに嬉しい。(*25) 「昨日までの日々に別れを。明日から世界に祝福を」 生真面目な雰囲気の女性が盃を掲げると、まだ意識のあるものは自らの酒杯を 掲げた。数瞬の静寂。ある者は離れてきた家を想い、ある者は残してきた者達を想い、 ある者はそこにあった自然を想い……みな幻想郷のことを想い、そして別れを告げた。 こうして今までの昨日は終わり、全く新しい明日が始まったのである。 人間にとっても、妖怪にとっても。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 こうやって人間をだまして悪戯する *3 空を飛ぶのと弾幕を撃つのは、幻想郷では標準技能。 *4 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 普通の風竜と一緒にしないで欲しいのね!) *5 絶対に気がついてる。 *6 酒を飲むありがちな口実。 *7 多分カリスマ度。 *8 多分幼女度。 *9 レミリアの能力は、運命を操る程度の能力。 *10 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 野蛮な火竜と一緒にしないで欲しいのね!) *11 正装。 *12 親交=信仰。って神主が言ってた。 *13 見ているだけなら安全。 *14 実は寝間着らしい。 *15 早くも幻想郷入りしていた? *16 尻尾枕だったかもしれない。 *17 とてもこき使われたらしい。回転しながら特攻とか。 *18 この弾幕はフランからのパクリなのか? *19 現実逃避。あるいは自己暗示。もちろん、全部幽霊。 *20 ご想像にお任せします。 *21 魔法ヲタクかつ人形ヲタク。 *22 恋ではなく変です。 *23 ミョ(略)ンなルーン。 *24 妖怪にとってはイラスト付きの自己紹介本。自己アピールあり。だから信頼性は不明。 *25 それに体型的にも嬉しい。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第40話 才人からの贈り物 隕石小珍獣 ミーニン 隕石大怪獣 ガモラン 毒ガス幻影怪獣 バランガス 登場! 時に、ブリミル暦紀元前……この惑星は死の星と化していた。 ルイズたちが生まれる、六千年以上もさかのぼるはるかな過去の時代。平賀才人は、この時代の大地を踏みしめて歩いていた。 「サハラから西へ旅を続けて、もう一ヶ月は経つな……けど、今日も見えるのは砂嵐と荒地ばっかりか。ほんとにここが将来ハルケギニアになるなんて信じられないぜ」 汚れた空に、乾ききった大地がどこまでも連なる光景に、才人のつぶやきが流れて消えていく。 才人の周りでは、彼の属するキャラバンが、砂ぼこりを避けるためのぼろに似た外套をすっぽりとかぶって粛々と隊列をなしている。彼らは将来、この地がアルビオンと呼ばれる国になることを知らない。 そう、この時代の彼らにとって、確かな未来などというものは何一つとしてなかった。あるのは、なにもわからない明日へとつながっていく今日のみ。 キャラバンは才人を含めて、百人を少し割る程度の人数で組まれ、そこには人間以外にもエルフや翼人など様々な種族が混じっている。 そして、このキャラバンを指揮するリーダーの名前はブリミル。後の世で、ハルケギニアの歴史を開いた始祖ブリミルとして崇められる人物である。 しかし、今のブリミルには聖者としてあがめられるようなものはまだなにもない。ただひたすら、仲間たちとともにわずかばかりの物資を積んだ荷車を引いてあてもない旅を続ける放浪者に過ぎなかった。 「サイトくん、大丈夫かい? よかったら、水ならまだあるよ」 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」 先行きが見えない旅では、物資の浪費はあらゆる意味でつつしまねばならない。水くらい、魔法で作り出せるけれども、いざというときのために精神力はなによりも節約せねばならないものだということを才人も心得ていた。 けれども、才人は自分を案じてくれたブリミルの優しい眼差しには心から感謝していた。こうして間近で見るブリミルの姿は、どこにでもいる平凡な青年のそれそのものだ。”現代”のハルケギニアで語られているブリミル像のほとんどが、想像による虚構でしかないのであろう。 ヴィットーリオの虚無魔法によって、この時代に飛ばされて以来、才人は彼らと行動をともにしてきた。自分がなぜこの時代に飛ばされてきたのか、才人にはわからない。ヴィットーリオが意図したものとは思えなかったし、つたない想像力を働かせてみると……暴走した虚無の力が、その源流へと帰ろうとしたのか、そういうところだろうか。 もっとも、才人にとってはどうでもよかった。この時代に来てしまったのが偶然であれ必然であれ、現代のハルケギニアで起きている問題の原因はこの時代にさかのぼってしまうのだ。謎に迫るのに、現代ではわずかな資料から推測することしかできなくても、この時代に来て当事者たちと行動をともにすること以上があるだろうか。 この時代を襲った大厄災、光の悪魔ヴァリヤーヴ。それらの正体を知って、現代に持ち帰るという使命感で才人はブリミルたちについてきた。その中でブリミルや仲間たちとも気心も知れてきたのだが、生まれも種族も違っても、皆いい人ばかりだった。こんな世界では、助け合わなくてはとても生きていくことはできない。 特に、ブリミルに次いでキャラバンのリーダーシップをとっているのが、隊の先頭に立って歩んでいるエルフの少女だった。 「みんな、ちゃんとついてきてる? 砂嵐には注意して、隣にいる人が離れてないか確認を忘れないでね! 誰かいなくなったら、すぐに大声をあげるのよ!」 「うわあ、サーシャさん、がんばってるなあ。ブリミルさん、水ならおれよりあの人に持っていってあげてください」 「いやいや、僕が持っていったら余計なことするんじゃないわよって怒鳴られるよ。水はサイトくんが持って行ってくれ。やれやれ、リーダーは一応僕なんだけど、あれじゃどっちがリーダーかわからないよなあ」 苦笑するブリミルの視線の先には、金髪をなびかせてキャラバンを鼓舞するエルフの美少女、サーシャの姿があった。彼女こそ、この時代の、そして最初の虚無の使い魔ガンダールヴであり、ブリミルのパートナーだ。 そして彼女こそ、才人たちの時代にも現れたウルトラマンコスモスのこの時代での変身者だった。 この世界に迷い込んで、あのカオスドルバとの戦いを経てからずいぶんと長い間旅を続けてきた。それは、各地を回りながら生き残りの人を探し、救っていく、あてもない旅。だが、そうするしかないほどに彼らは弱体であり、頻繁に襲ってくるヴァリヤーグとの戦いは彼らに消耗を強いた。 「光の悪魔……てか、ありゃどう見ても宇宙生物だよな。怪獣に取り付いて操って、この星を征服しようとでもしてやがんのか? けど、おれたちの宇宙にはあんなやつはいないしなあ……せめて話でもできればと思っても無理だったし」 ヴァリヤーグはどこから沸いてくるのか、いくら倒してもいっこうに攻撃が緩む様子もなく、ヤプールとの戦いを続けてきた才人も辟易としていた。対話を試みても、相手には知性があるのかどうかすら疑わしい。残念ながら、ヴァリヤーグと呼ばれている光の生命体が感情を持つようになるのは、はるかな未来の話なのである。 わずかな手がかりを頼りに、かつて街や村だった場所を訪れてみることを繰り返す日々。が、そのほとんどはすでに廃墟と化しており、生存している人はよくて数人であった。それでも、絶望に耐えて生き延びていた人たちはブリミルの仲間に加わり、困難な旅へと同行することをためらわなかった。 つらい旅ではあったが、廃墟にとどまって死を待つよりは、自らの足で最後まで歩き続けるほうがまだ希望がある。カオス化した怪獣たちはブリミルの虚無とウルトラマンコスモスの活躍で撃退し続けることができた。浄化した怪獣たちを眠りにつかせ、襲われていた人々を仲間に加えて旅を続けて、少しずつキャラバンは規模を広げていった。 しかし、襲ってくるのはヴァリヤーグばかりではなかった。この世界にいる怪獣たちの中には、ヴァリヤーグとは関係なく襲ってくるものもいたし、才人がいた時代と同じように原因のはっきりとしない異変と遭遇することもあった。 その中のひとつの、ある事件と、そこで出会った小さな仲間。それが、才人とハルケギニアの未来を大きく揺るがすことになる。 ブリミルのキャラバン隊の、荷車のひとつの上から才人にかわいらしい声がかけられた。 「きゅうーん」 「こらミーニン、顔を出しちゃダメだろ。まだ外は空気が悪いんだ、次の休憩地まで中でおとなしくしてな」 「きゅう……」 才人は、甘えるような声をかけてきた赤い小さな生き物に、ちょっと厳しめに言った。 その生き物は、才人の知っている珍獣ピグモンにそっくりな容姿をしていた。性格も同じようにおとなしくて友好的で、今ではキャラバンの仲間としていっしょに旅をしている。 ミーニンは、才人に叱られると残念そうな顔をしてから荷車の中に引っ込んだ。荷車の中からは、ミーニンのほかに数人の子供の遊ぶ声が聞こえてくる。歩く旅に耐えられないほど幼い子たちは、こうやって連れられているのだ。 子供たちは、旅の困難さとは関係ないように楽しそうに中で遊んでいるようだ。そんな声を聞いて、ブリミルはすまなそうに才人に言った。 「本当にすまないね。僕の移動の魔法さえあれば、皆をもっと安全に遠くに運べるというのに……」 「気にすることなんてないですよ。いざというときにブリミルさんの魔法が使えないことのほうが大変ですって。それに……」 それに、と言い掛けて才人は口をつぐんだ。ここが始祖ブリミルの時代であるならば、ブリミルがこんなところで終わるはずはないのだ。 この先、どんな困難が待っているにせよ、少なくともブリミルは子孫を残してハルケギニアの基礎を築くところまでは行くはずだ。また、現代にある始祖の秘宝もまだ影も形もない以上、ブリミルが亡くなるのはまだ何年も先であると確信できる。 ただし、下手な干渉をしすぎて未来を変えてしまうわけにはいかない。タイムパラドックスというものがどうなるのか、やってみなければ想像もつかないが、混乱に自分から拍車をかけるわけにはいかないと才人は自重していたのだ。 始祖ブリミルの人柄、謎の敵ヴァリヤーグ、この時代に来たからこそわかったことは多い。それに、彼の率いるキャラバンに加わっている者たちは、現代のハルケギニアでは敵対しあっている者同士である。それがこうして仲良く協力し合えている光景は、まさに現代で目指している”夢物語”の風景そのものではないか。才人はそれらを、現代にいるみんなにすぐにでも話したかった。 けれど、まだそれはできない。現代に帰る方法に、まだたどり着いていないからだ。それに、まだ大厄災について肝心な部分を知れていない。以前、始祖の祈祷書が見せてくれたヴィジョンにあった、ヴァリヤーグの現れる前からこの世界で続いていた戦争についてなどのことを尋ねようとすると、なぜかブリミルたちは固く口を閉ざしてしまうのだった。 「結局、枝葉の部分だけで根っこについては謎のままなんだよな。ブリミルさんたち、いったいなにを隠してるんだろう?」 元来、口は軽くてもうまくはない才人に、他人の口を割らせるための交渉術など土台無理な話だった。もっとも、それを置いても今知っている情報だけでもとてつもない価値がある。なんとしてでも、帰る方法を見つけなければならない。せめてルイズもいっしょにこの世界に来てくれていたら、ウルトラマンAの時間移動能力で帰れたのだが。 そうして旅をしながらじれる日々が続いていたときである。ミーニンとの出会いとなった、ある街での事件に遭ったのは。 時は、一週間ほどさかのぼる。 「ショワッチ!」 瓦礫と化した街の中で、ウルトラマンコスモスと一頭の怪獣が睨み合っていた。 怪獣の名前は隕石大怪獣ガモラン。才人の知っているロボット怪獣ガラモンと似ているが、まったく別種の怪獣兵器だ。 「ヘヤッ!」 コスモス・ルナモードが突進してくるガモランをさばいてかわし、振り返ってきたところを掌底で押し返した。 だが、ガモランはひるむことなくコスモスへと襲い掛かってきて、コスモスはルナ・キックで押し返し、ルナ・ホイッパーで巨体を投げ飛ばした。 地響きをあげて、廃墟の瓦礫をさらに砕きながら転がるガモラン。その戦いの様子を、才人やブリミルたち一行は少し離れた場所から見ていた。 「いけーっ! がんばれ、ウルトラマンコスモス!」 「サーシャ頼む、昨日ヴァリヤーグに使ったおかげで僕の力はまだ半分ほどしか戻ってない。今は君に頼むしかないんだ」 二人の応援が風に乗ってコスモスへと届く。コスモスと一体化しているサーシャは、それを少し苦々しく思いながらも聞いていた。 『まったく気楽なんだから。どこの世界に女の子を戦わせて応援にまわってる男がいるのよ。あの二人、やること済んだら必ず絞めてやるわ!』 現代でコスモスが一体化しているティファニアと比べたら態度の乱暴さがはなはだしいが、それでもしっかりと地上のブリミルたちをかばうように体勢をとっているのはサーシャの優しさの表れだろう。 コスモスがどうしてサーシャと一体化するようになったのか、才人はそれも知りたかったが、ブリミルもサーシャも答えてはくれず、キャラバンの仲間にも知っている者はいなかった。なにかしら答えづらい事情があるのだろうとは才人も察するのだけれども、それを聞いたときのふたりがとてもつらそうな顔をしていたので無理に聞けなかった。 指を槍のように伸ばして突き立ててくるガモランを、コスモスはひらりひらりとさばいてかわす。しかしガモランは、才人の知っているガラモンが熊谷ダムを体当たりで一発で破壊したように、体格を活かした突進攻撃を得意としているからちょっとやそっとではあきらめない。その上に、ガラモンの身長四十メートル六万トンに対してガモランは五十メートル七万トンと一回り大きく、それでいて動きも素早いのでコスモスも簡単にはあしらうことができない。 防戦一方に陥っているように見えるコスモス。しかし、なぜガモランがこの街に現れたのだろうか? ガモランは自然発生する怪獣ではなく、それにはちゃんとした理由がある。 才人たちが街の住人の生き残りから聞いた話はこうである。この地に、街ができるより前には小さな集落があって、そこには小さな岩くれと金属の箱が受け継がれていた。それは、あるとき空から落ちてきた贈り物だといい、決して開けることのできない箱を開けることができたら幸福が訪れるのだと言われていた。それまでは、文字通りに誰がなにをやっても開けられない箱で気に留められていなかったのだが、集落を街に発展させた”外来人”たちは箱の仕組みを見抜き、なんらかの方法で箱といっしょに伝えられていた岩から小怪獣ミーニンを再生することに成功した。 ”外来人”たちが集落の先住民たちに語った話では、ミーニンは元々は宇宙のどこかから送り込まれてきた異文明攻撃用のバイオ兵器ガモランであり、箱はその起動装置であると。本来なら、ミーニンになった岩にへばりついていたヒトデのような形のバイオコントローラーで巨大化して操られるのだが、”外来人”たちはその仕組みを解析して、バイオコントローラーを起動させずにミーニンを目覚めさせたのだという。 それ以来、ミーニンはおとなしい怪獣として、この街の子供たちのよき遊び相手となってきた。しかし、この街もほかの街と同じく戦火に飲み込まれたとき、追い詰められた街の生き残りたちはガモランを防衛兵器として利用しようと、封じられていたバイオコントローラーを使ってミーニンをガモランにした。が、結局コントロールすることはできずに、自分たちがガモランに襲われてしまったということらしかった。 才人たちの後ろには、ミーニンの友達だった街の子供たちがいる。皆、なんとかミーニンを助けて欲しいと訴えかけてくる姿は才人の心を締め付けた。 「大丈夫。ウルトラマンがきっとなんとかしてくれるさ」 子供のひとりの頭をなでてやりながら才人は優しく言った。この破滅してゆく世界の中で、友達の存在はどれだけ子供たちの支えになったことだろう。どんな理由があろうと、大人がそれを失わせてはいけない。 けれど……と、才人は頭の片隅で考えていた。話を聞く限り、外来人とやらは宇宙人の力でロックされていた箱をリスクを回避して開けたということになる。街の生き残りに、もうその外来人はいないそうだが、そんなことができる技術力はまるで、彼らも…… と、そのときガモランの額から稲妻状の光線、ガモフラッシュ光線がコスモスめがけて放たれた。 「ヘヤアッ!」 コスモスはとっさにリバースパイクを張って攻撃を防いだ。そして、そのままバリアを前進させてガモランにぶっつけてダメージを与えた。 「ああっ! ミーニーン!」 「おいサーシャ、ちゃんと手加減しろよ! 子供たちがおびえてるだろ」 ブリミルが慌てて叫ぶと、コスモスはしまったと思ったのかピクっとした。ウルトラマンは同化した人間の影響を強く受ける。サーシャの荒っぽい性格が、さすがの優しさのルナモードにも反映されてしまったのだろう。 だがしかし、これは好機には違いない。ガモランの動きが止まっている今なら、なんとかするチャンスがある。そこへ再度ブリミルがコスモスに向かって叫んだ。 「額だ、怪獣の額のヒトデを狙うんだ。それが怪獣を操っているコントローラーなんだ!」 コスモスが理解したとうなづく。しかし、才人は違和感を強くしていた。やはり、この人たちはただのメイジなんかじゃあない。なぜかはわからないが、相当な科学知識を持っている。 しかし、才人が考えるよりも早くコスモスは動いていた。ダッシュしてガモランに接近し、左手を上げて光のパワーを溜め、それをガモランのバイオコントローラーに貼り付けるようにして振り下ろした。 『ピンポイントクロス』 相手の能力を封じるエネルギーを押し当てられて、バイオコントローラーは急速に効力を失って自壊した。 バイオコントローラーさえなくなれば、ミーニンをガモランに変えていた効力もなくなる。巨大化も解除されて、ガモランはみるみるうちに小さくなり、やがて愛らしいミーニンの姿に戻った。 「やったぁ! ミーニン!」 元の姿に戻ったミーニンへ子供たちが駆け寄っていった。ミーニンは額にピンポイントクロスが変化した×の形の絆創膏がひっついたままでいるが、元気そうに飛び跳ねて早くも子供たちと遊んでいる。 とりあえず、これで一件落着か。ブリミルや才人も考えるのをいったんやめてほっと胸をなでおろした。 コスモスも、ガモランが完全に無力化されたのを確認すると飛び立つ。 「ショワッチ!」 やがてサーシャも帰還し、ブリミル一行は勢ぞろいした。 バイオコントローラーが破壊された以上、ミーニンが凶暴なガモランに変化する危険性はもうないだろう。ブリミル一行は、街の生き残りとミーニンを旅の仲間に加えることを決めた。 それが、ミーニンが仲間にいる経緯である。 その後も、ブリミル一行は可能な限り各地の生き残りを探しながら旅を続けてきた。 だが、仲間が増えることは必ずしもいいことだけとは限らない。この過酷な旅に同行させ続けるには耐えられない者も出始めているし、キャラバンの規模も移動を続けるには大きくなりすぎ始めている。 「どこかに腰を落ち着けられる場所を見つけなければいけない。でなければ、我々は墓標を立てながら旅をしなければいけなくなる」 ブリミルは焦っていた。このまま無理に旅を続ければ、せっかく見つけた生き残りの人々がバタバタと倒れていく死の行軍となってしまう。 そんなときである。この地の先に、比較的無事な土地があると聞いたのは。 そして、ブリミルたちは苦しい旅を乗り越えて、後にロンディニウムと呼ばれる土地にたどり着いた。 「おお、この世界にまだこんな場所が残っていたとは……」 「緑に、湖……なんだか、すっごく久しぶりに見たわ」 ブリミルやサーシャの目からは涙さえ流れていた。当時のロンディニウムは小高い丘のそばに小さな湖があるだけのこじんまりとしたオアシスで、現代であれば誰にも見向きもされないだろう。しかし、砂漠のような土地を旅し続けてきたブリミルたちにとっては天国のように見えた。 しかも都合のいいことに、近くにはこのあたりの領主が別荘にしていたのかもしれない小さな城が、半壊ながらも残ってくれていたのだ。 「ありがたい、これならなんとか定住することができる。ようし、ここを我々のしばらくの拠点にしよう!」 ブリミルの決定に、全員から歓呼の声があがったのは言うまでもない。これでなんとか、子供や怪我人は旅から離れて定住させることができる。 だが、この小さなオアシスでは養える人数はたかが知れている。水だけはなんとかあるが、これまで立ち寄ってきた街から回収してきた食料はあまり多くなく、この地で耕作をやるにせよ、収穫ができるのは当分先だ。人数が増えたことが今では仇となっていた。 「食料をどこかで見つけないと、このままでは餓死者が出てしまう。しかし、どんなに節約しても長くは持たない」 ブリミルは悩んでいた。これから食料を探しに出るにしても、収支がギリギリでマイナスになってしまうのだ。なんとかしたい、これまでいっしょに苦楽を共にしてきた仲間をひとりとて犠牲にはしたくなかった。 そんなときである。子供たちを連れるようにして、ミーニンがブリミルの元にやってきたのは。 「ブリミルさん、ミーニンがなにか言いたいことがあるみたいなの」 「ミーニン、ありがとう、僕をはげましに来てくれたのかい。おや、それはバイオコントローラーを操作していた箱じゃないか……まさか、ミーニン、君は」 ブリミルが驚いてミーニンの顔を見ると、ミーニンはさびしそうな目をしてきゅうと鳴いた。 ミーニンの意思、それは食料の節約のために、自ら岩に戻って口減らしになろうというものだった。 これを、もちろんブリミルは拒絶しようとした。が、一人分を削ることができればなんとか収支をプラマイゼロにすることができ、悩んだ末に才人やサーシャにも相談し、サーシャの一言で決心した。 「それはミーニンの意思を尊重するべきよ。一番つらいのは誰だと思う? ミーニンに決まってるじゃない。それでも、ミーニンはせっかくできた友達と別れる覚悟をしてまで名乗り出てくれたのよ。あなたがリーダーなら、その意思を無駄にしちゃいけないわ」 サーシャの言葉に、ブリミルは短く「わかった」と答えた。それを見て才人は、責任を持つということのつらさと重さをかみ締めるのであった。 だが、ミーニンの封印は簡単なことではない。一度ミーニンを岩に戻してしまうと、復元するためのエネルギーがたまるまでに地球時間で何百年もかかってしまうことがわかったのだ。つまり、この世代の人間がミーニンと再会することはできない。 子供たちをはじめ、仲間たちは皆がミーニンとの別れを惜しんだ。もちろん才人もで、短い間でとはいえミーニンの無邪気さには何度救われたか知れない。が、そのときふとブリミルが思いついたように才人に言った。 「そうだ、サイトくん。君が探してる、未来の君の仲間に連絡をとる方法だけど、もしかしたらあるかもしれないぞ」 「ええっ! それマジですか! なんですなんですか」 「落ち着きたまえ。単純な話だ、ここが君の世界から六千年前だったら、今から六千年経てば君の時代に行き着くということさ。我々人間にとってはとほうもなく長い時間だが……」 才人もそれでピンときた。六千年は宇宙人や怪獣でもない限り、普通の生き物が超えるには長すぎる時間であるが”物”ならば別だ。ミーニンに手紙を託して、自分のいた時代へと運んでもらうのだ。いわゆるタイムカプセル。ミーニンにしても、いつともしれない時代で目覚めさせるよりかは自分のいた時代なら信頼できる人がいる。 だが、それは理屈では可能として、どうやって才人の来た時代で目覚めさせればいいのだろう? それを尋ねるとブリミルは自信たっぷりに答えた。 「心配はいらない。コントロールボックスはタイマー式に設定しなおしてある。ついでに、ミーニンの石を収めておけるだけのスペースがあるようにも改造済みだ」 いつの間に!? と才人は思ったが、それよりも宇宙人の送り込んできた装置を改造するなんてどうやって? そんな真似、いくら伝説の大魔法使いでも都合がよすぎる。 しかし、ブリミルは相変わらず、その質問に対してだけは貝のように口を閉ざしてしまった。 才人はじれったく思ったが、こればかりはどうしようもなかった。ブリミルたちがどこから来た何者であるのか? それを知れるのはいつかブリミルたちが本当に心を許してくれるときまで、待つしかできない。 ミーニンは岩に戻されて、この小城の地下に封印されることとなり、才人は急いで未来に当てた手紙をしたためた。教皇がハルケギニアの滅亡をもくろむ敵であること、始祖ブリミルがエルフとの共存をしていた温厚な人物であること、この時代を襲っている謎の敵ヴァリヤーグのことなど、自分が知っていることを可能な限り書き込んだ。 そしてついに別れのとき、才人はミーニンが子供たちとの別れを涙ながらに済ませた後、ミーニンに手紙を入れた小箱を託した。 「ミーニン、自分勝手なお願いだと思うけど、この手紙には、この世界の未来がかかってるかもしれないんだ。それと……またな」 才人はミーニンに再会を約束して、最後に握手をかわした。未来に行くミーニンと、いずれ自分が未来に帰れるときには再会できるはずだ。しかしそれならばミーニンを未来に送ることは無駄になるのではないか? いや、そうではない。才人は未来の世界のために、思いつく限りのあらゆる方法を試してみるつもりだった。 無駄に終わればそれでいい。しかし、何度もいろいろな方法を試せば、そのうちのひとつくらいは成功するかもしれないではないか? 人間がはじめて空を飛ぼうとしたときだって、ライト兄弟の成功に行き着くまでには数え切れないほどの試行錯誤と失敗の積み重ねがあった。まして、六千年の時間を越えて未来に帰ろうというのに、努力を惜しんでいて成功するはずもない。 と、そこで才人はコントロールボックスを設定しようとしているブリミルから尋ねられた。 「ところでサイトくん、タイマーは何年後にセットすればいいかな?」 「えっ? あ、しまった!」 才人は自分のうかつさに気づいた。始祖ブリミルの時代が『現代』から六千年以上前だとしても、自分のいる今が現代から正確に六千何年前ということがわからなければ意味がない。正確に自分の来た年代に設定しなければ、何十年何百年単位でズレてしまうだろう。 が、そんなことを調べる方法などあろうはずがない。この作戦は失敗かと、才人がとほうにくれたとき、サーシャが思いついたように言った。 「別に簡単じゃない。サイト、あんたが来たのって、あんたの年代で何年なの?」 「え? 確か、ブリミル暦六二四三年だったと思うけど」 「じゃあ今年がブリミル暦一年で決定ね。六二四二年後に合わせれば、あんたの時代につくわ」 「ええっ!? そんな、ちょっと!」 才人とブリミルはあまりにあっさりと決めてしまったサーシャに詰め寄ったが、サーシャは流れるような金髪をくゆらせて涼しい顔である。 「なに? 文句あるわけ? ほかにいい方法があるっていうなら取り下げるけど」 「い、いやぁ……でも、年号はもっとめでたいときに決めるものじゃあ」 「あんたの頭は年がら年中おめでたいでしょうが。別にいいじゃないの、増えはするけど減るものじゃなし」 なんか納得いかないが、サーシャの鶴の一声で強引に今年がブリミル暦一年に設定されてしまった。ブリミル教徒であるならば、ものすごく名誉な瞬間に立ち会ったことになるのだろうが、なんというかまるでありがたみが湧かない。 が、おかげで年代の設定の問題は解決した。なお、ここで設定を六二四二年後より少し少なく設定すれば教皇に飛ばされる前の自分たちに届いて歴史を変えられるかもしれないと思ったが、それだとこんがらがってしまうためにやめた。歴史を無為に変えてはならない。 ともあれ、これで問題はもうない。ミーニンはコントロールボックスの力で元の岩の姿であるガモダマに戻され、コントロールボックスに入れられて封印された。 「頼んだぜ、ミーニン……」 これで、ミーニンが目覚めるのは六二四二年後ということになる。才人はミーニンに困難な仕事を押し付けるような後ろめたさを感じたが、サーシャに「人生の選択を全部ベストにすることなんて誰にもできないわよ」と、励まされた。 そうだ、犀は投げられた。後は、希望を信じて次へと進む以外にできることはない。 才人は、最後にミーニンが見せてくれた無邪気な笑顔を思い出しながら、みんなのいる未来へと思いを寄せるのだった。 六千年という時間は長い。人は骨と化し、大地の形さえ変えてしまう。 だがそれでも、時を越えて希望の光はどこへでも届く。 ブリミルの設定したとおり、ミーニンは六二四二年の時を越えてアルビオンの地に蘇った。ブリミルの子孫、ウェールズの先祖たちはブリミルの遺産を守り続けてくれたのだ。 ウェールズはミーニンの持っていた手紙から、これが始祖ブリミルの時代から自分たちの時代へのメッセージであることを知った。そして、手紙の内容に愕然として即座にトリステインへと使いをよこし、知らせを受けてエレオノールやミシェルが急行し、すべてが真実であることを確かめたのである。 「これは、この手紙の入っていた箱のつくりは、これまで始祖の時代の遺跡から発掘されたものと一致します。これは間違いなく始祖ブリミルの時代に作られたもの……ミス・ミシェル、手紙の鑑定のほうはどう?」 「ああ、これは間違いなくサイトの字だ。あいつのヘタな字だ。わたしがたわむれに教えた、銃士隊の古い暗号文だ……サイト、お前、やっぱり生きてたんだな。それにしても、始祖ブリミルと友達になったなんて……お前、ほんとうにとんでもない奴なんだなあ……」 涙で顔を真っ赤に腫らしながらようやく言葉を搾り出すミシェルを、エレオノールは呆れたように眺めていたが、やがて彼女たちに同行してきた銃士隊員のひとりがハンカチを差し出した。 「副長、涙を拭いてください。サイトの奴は、ほんとうにたいしたやつでしたね。あいつは、どんなときでもみんなのことを思ってくれている。さすが、副長の惚れた男です」 「アメリー、ありがとう……そうさ、サイトが死ぬもんか。あいつは、あいつは誰よりも強くて優しい、ウルトラマンだ」 ミシェルは、自分も今日まで生きてきて本当によかったと思った。才人は生きていた。いまだに手は届かないところにいるけれども、こうして手を差し伸べてくれている。 ひざをついて感動に打ち震えているミシェルの頭を、ミーニンが骨のような手で優しくなでてくれた。ミシェルは顔をあげると、才人が六千年前にしたようにミーニンの手をぎゅっと握り締めた。 「ありがとう。ミーニンだっけな、よくサイトからのメッセージを伝えてくれた。見慣れない世界で戸惑っていると思うが、サイトの友達なら我々の仲間と同じだ。安心してくれ」 言葉は通じないが、ミーニンはミシェルの言っていることの意味は理解できているように、うれしそうに笑った。手紙にはミーニンのことをよろしく頼むとも書かれてあって、ミーニンはウェールズとの話し合いにもよるが、トリステインに連れ帰ってカトレアに預けるのが一番いいだろう。彼女なら、数多くの生き物を飼っていることだし、人柄も信頼できる。 それに、この知らせをトリステインにいるギーシュたち水精霊騎士隊にも伝えたらさぞかし喜ぶことだろう。後ろでは、銃士隊で一番のお調子者のサリュアがウェールズがいる前だというのに万歳して大喜びしているようだ。 だがウェールズは、エレオノールからあらためて詳細を伝えられて表情をしかめている。彼はあまりにも常識を超えた事態に驚きながらも、これからのやるべきことを冷静に考えていた。 「以前の私に続いて、今度はロマリアの教皇陛下が侵略者の手先になったというのか。確かに、ロマリアから布告された聖戦はなにかおかしいと思っていたが……やっと戦乱から解放されたばかりのアルビオンの民にはすまないが、なんとしてでも聖戦には反対せねばいけないな」 だが、再建途中のアルビオン軍でどこまでやれるものか。また、家臣や兵隊、国民たちに教皇が敵だということをどうやって納得させればよいものか……ウェールズがいくら国王とはいえ、すべての意思が通じるわけではないのだ。 アンリエッタが悩んでいたように、前途には大きな壁がまだ立ちふさがっている。それでも、乗り越えなければハルケギニアに未来はない。アンリエッタも才人からの手紙の内容を知れば、ウェールズと同調して必ず行動を起こすだろう。 と、そのときだった。ミーニンが、手紙の入っていた箱を指差してなにやら訴えているようなので、エレオノールが箱の中をもう一度丹念に探ったところ、底から奇妙な形の”あるもの”が出てきたのである。 「なによコレ……首飾り? でも、この紐といい、こんな奇妙な素材は見たことないわ」 エレオノールは、美しいとはおせじにも言えない首飾りのようなものを手にして首をかしげた。箱の中には同じものがふたつ出てきたが、どちらも見たところガラクタにしか見えない。 しかし、このガラクタのような首飾りこそ、才人がこの時代に当てたもうひとつの贈り物であり、切り札となるべきアイテムであった。首飾りと共に出てきた、その使い方を記したもう一通の手紙が読まれたとき、教皇の巨大な陰謀にひびを入れる蟻の一穴がこの世界に生まれる。 再び過去へと戻って、才人はブリミルとともに空を見上げていた。 「ミーニン、無事に未来につけるといいな」 「心配要らないさ、ミーニンは運の強い子だ。必ず君の仲間のもとにたどり着いてくれるよ。そうしたら、手紙といっしょに託したあれもきっと役立つだろう。僕とサーシャの自信作だ、きっと君の仲間の役に立ってくれる」 「はは、ブリミルさんもサーシャさんも、ノリノリであれ作ってましたもんねえ。でも、あれをうまく使ってくれれば、教皇の悪巧みもおしまいだぜ。女王陛下なら、きっとやってくれますよ」 アンリエッタ女王とはあまり親しいというわけではないが、何度もトリステインを救ってきた手腕と行動力は信じている。確実に届くように、文章の一部には銃士隊の関係者しか知らない暗号も混ぜたから信憑性も疑いないはずだ。 同封された才人とブリミルからの贈り物。それが使われたときに、ヴィットーリオとジュリオのすまし面がどう崩れるのか、まったくもって楽しみでならない。 けれどそれでも、才人の表情にはミーニンを案じている不安げな様子が残っていた。それに気づいたのだろう。ブリミルが、才人の背中をどんと叩いて励ました。 「こらこら、そんな顔してたらミーニンが安心して眠れないぞ。それに未来に届くまで、いつか僕らが死んで霊魂になってもミーニンを守ってやるから絶対大丈夫! さ、僕らには次の旅立ちが待ってる。ぐずぐずしてるとサーシャにどやされるぞ」 「はい! ようし、行きましょう。ハルケギニアは広いんだ。まだまだどこかに、おれたちを待ってる人がいるはずだからな」 「ああ……ところでサイトくん、君が未来に帰る方法なんだが」 「えっ? なんですって?」 「思い出したんだが、時空を超える能力を持つ、あの……いや、どこにいるかもわからないし、すまない聞かなかったことにしてくれ」 「なんですか? 変なブリミルさんだなあ。まあいいか、旅をしてればそのうちいいこともあるってね。それにルイズ、ルイズもきっとどっかの空の下でがんばってるはずだ。いつかきっと、きっと会えるさ」 才人は多くの仲間たちの最後にルイズの顔を思い浮かべた。そうだ、あの負けん気の固まりのようなご主人様が簡単にあきらめるわけがない。たとえこの世界にいなくても、どんなときでも無理やりにでも道を開いていこうとしてきたルイズのことを思い出すと勇気が湧いてくるのだった。 いつかの再会と、明るい未来を信じて、才人とブリミルはサーシャと仲間たちの待つキャラバンへと駆けていった。 信じる心に、時空の壁など関係ない。時を越えて、才人の思いは確かに仲間たちのもとへと届いた。 そして、次元を超えて旅する者がもう一組。 それは、才人たちが知るどの次元とも違うマルチバースのひとつの宇宙。そのどこかの惑星の上で、ひとつの戦いが繰り広げられていた。 『エクスプロージョン!』 虚無の爆発魔法の炸裂が空気を揺るがし、紫色の体色をした巨大怪獣に襲い掛かる。 怪獣の名前は、毒ガス幻影怪獣バランガス。身長八九メートル、体重十二万九千トンの巨体を持ち、体から噴出す赤い毒ガスを武器とする。 その強力な怪獣に、体の半分を焼け焦げさせるほどの大ダメージを与えた虚無魔法を放った者こそ、誰あろう? いや、ひとりしかいない。 「よくも今まで好き勝手やってくれたわね。でも、これ以上この星で暴れさせはしないわよ。覚悟しなさい」 桃色の髪を風になびかせながら杖を高く掲げ、ルイズの宣告がバランガスに叩きつけられた。 この星は、宇宙には数え切れないほどある地球型惑星のひとつ。特に自然豊かなわけでも、高度な文明があるというわけでもない平凡な惑星であるが、この星は今滅亡の危機にさらされていた。 バランガスは自分をガスに変えることでどこにでも出現し、好き放題に破壊活動を繰り返してきた。だが、それをようやく捉えることに成功し、ルイズの虚無で致命傷を与えることに成功した。 が、なおも自分をガスに変えて逃げようとするバランガスに、青い光芒が突き刺さる。 『ソルジェント光線!』 ガスに変わる前の実体に必殺光線を叩き込まれたのでは、いかにバランガスとてひとたまりもない。断末魔の咆哮を響かせて、巨体がゆっくりと倒れこむ。 勝利。そしてルイズの視線の先には、指を立ててガッツポーズをとるひとりのウルトラマンの姿があった。 「よっしゃあ! 見たかよルイズ、俺の豪速球ストレートを」 調子のよい口調で話しかけてくるのは、こちらも誰あろう。消息不明になっていたウルトラマンダイナだった。ルイズはそのダイナの自慢げな様子に、怪獣を逃げられなくしたのはわたしの魔法じゃないのと返して、ダイナもむきになって言い返して口げんかになった。 だが、何故ルイズとダイナが共に戦っているのだろう? それは、運命のいたずら……ただし、それを語る前に巨大な脅威が二人に近づいてきていた。 「だいたいルイズ、お前はいつもな! っと、そんなこと言ってる場合じゃなくなったようだぜ」 「そうね、アスカ……あんたと旅をしはじめてからしばらくになるけど、今度の相手はどうも格が違うみたい。背筋が震えるような気配がビンビン来るわ」 冷や汗を流したルイズとダイナの見ている前で、星の火山が巨大な爆発を起こす。その中から現れる、あまりにおぞましい姿をした超巨大怪獣。 誰も知らない宇宙で、全宇宙、ひいてはハルケギニアの運命につながる決戦が始まろうとしていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十五話「泣くな失恋怪獣」 硫酸怪獣ホー 登場 ……ウチのクラスにルイズが転校してきてから、一日が経った。第一印象が最悪だったんで、 一時はどうなることかと思ったが……ルイズはきついところはあるけれど、意外と気さくで 人当たりのいいところがあって、案外すぐ打ち解けられた。いやぁよかった。どうしてかそれと 前後してシエスタが妙に不機嫌になっているが……。 何はともあれ今日も登校すると……校舎の玄関口で、そのルイズが一人の男子といるところを 目撃した。あいつは、確か……同じクラスの、中野真一って奴だったっけな? ルイズは中野に対して、バッと頭を下げた。 「ごめんなさい!」 何故か謝られた中野は、思いっきりショックを受けているようだった。 「そ、そんな!? ルイズさん、せめてもう少し考えてくれても……!」 「えーと、何て言うか……わたし、あなたをそういう風には見られないんです! だから…… ほんと、ごめんなさい!」 もう一度謝ったルイズが校舎の中へ逃げるように駆け込んでいく。何だ何だ? 「そんなぁ……ルイズさ~ん……」 置いていかれる形になった中野は、ガックシと肩を落としうなだれた。 呆気にとられる俺とシエスタ。これってまさか……。 「朝から賑やかなことだな」 と言いながら俺たちの元に現れたのはクリスだ。 ……あれ? クリスって……この学校にいたっけ? 昨日はいなかったような……。 まぁいいや。俺はクリスに何事だったのかを尋ねる。 「クリス」 「ああサイト、おはよう」 「おはよう。クリス、今さっきルイズと中野が何やってたのか知ってるか?」 「ああ。あの男子が、ルイズに自分とつき合ってほしいと告白をしたんだ」 告白! 俺とシエスタは目を丸くして驚いた。 「しかし、あの様子ではきっぱりと断られたみたいだな。かわいそうに」 「ナカノさん、ルイズさんは転校してきてまだ一日なのに、大胆ですねぇ……」 シエスタが呆けながらつぶやいた。確かに、大胆というか急ぎすぎって感じはするな。 「彼の気持ちがそれだけ真剣だったのだろう。真剣な気持ちに時間は関係がないということ、 師匠も言っていた」 クリスはそう語った。弓道部主将にして剣の達人でもある、女侍といってもいいクリスの師匠…… どんな人なんだろう。 ん? つい最近教えてもらったんじゃなかったっけ? でも、記憶には全然ない。また何か 変な思い違いをしてるのかな、俺……。 俺たちが話している一方で、中野は依然として肩を落としながらトボトボと校舎の中に入っていった。 その背中からは哀愁が漂っている……。確かにかわいそうだが、俺たちに出来ることなんてないよな。 せめて、早く失恋から立ち直ってくれることを祈ろう。 おっと、授業が始まる時間が近づいてきた。俺たちも教室に行こう。 教室に入り、授業が開始される寸前に、ルイズが俺に呼びかけた。 「ちょっと……」 「ん? ああ、また教科書持ってきてないのか?」 俺はまだルイズが教科書をそろえてないのかと思ったが、そうではなかった。 「違う! ……これッ!」 と言ってルイズが俺に突き出したのは、布にくるまれた箱型のものだった。 「何だこれ?」 「これは……その……あの……!」 「あの?」 「お、お、お、お弁当よ!」 弁当? どうしてそんなものを、こんな時間に出すのか。 「そうか、弁当か。随分でかいな。こんなに食ったら太るぞ」 「わ、わたしのじゃないもん!」 「じゃ、誰の?」 「あ、あ、ああああんたに決まってるでしょ!」 ……え? 「俺の? 弁当? お前が?」 「か、勘違いしないでよね! た、ただ、昨日、道でぶつかって謝りもしないままだったから……。 ほ、ほんのちょっぴりだけ悪かったなって! だから、お詫びの気持ちよ、お詫びの! ほ、ほんとに そ、それだけなんだからね!」 弁当……。女の子が俺に弁当を……。 俺は思わず教室の窓を開け放ち、青空に向かって叫んだ。 「神様ー! 生きててくれてありがとおおおおおお!! 僕は幸せで――――――す!」 「えぇッ!?」 驚くルイズ。周りの奴らもこっちに振り向いていた。 「ど、どうしたの? 平賀くん、何をやってるんですか?」 「ああ、またサイトが変なことしてるだけ。気にしたら負けよ」 目を丸くしている春奈に、モンモランシーがそう答えていた。変なことで悪かったな! この感動を表現するには、これくらいのことはしないと駄目だったんだよ! 「ちょっと! 恥ずかしいじゃない! どうして空に向かって雄叫び上げるのよ! みんな見てるわ!」 慌てふためくルイズに、俺は熱弁する。 「だって、弁当だよ? 手作り弁当だよ!?」 「そ、そうだけど! は、恥ずかしいからやめてよ!」 「お、俺、女の子に弁当もらうのなんて……。う、う、生まれて初めてで……。うっうっうっ……」 感動のあまり、俺は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。 「ち、ちょっと泣かないでよ。こんなことくらいで……」 「いやいや、男子高校生三種の神器には、一生縁がないと思ってたから……」 「三種の神器?」 「女の子の手作り弁当、バレンタインデーの本命チョコ、誕生日プレゼントの手編みセーター! この三つを称して、三種の神器と呼ぶのですッ!」 誰が呼んでいるのかは俺も知らんが、ともかく俺の中ではそうなっている! 「ああッ、今日は最高の日です。お父さん、お母さん。俺を生んでくれてありがとう!」 「ふ、ふーん。よく分からないけど、そんなに喜んでもらえるならよかったわ」 俺の感動ぶりに、ルイズは満更でもなさそうに言った。 「はッ!? そ、そうか、そうだったのか!?」 「え?」 「ちょっとこっちに来てくれ、ルイズ」 「こっちにって……! もうすぐ授業始まっちゃうってば! サイト!?」 教室じゃ何なので、俺はルイズを屋上まで連れていった。 「ごめんよ、ルイズ。君の気持ちに気づかないままで……」 「さ、サイト? な、な、何真面目な顔して……」 戸惑い気味のルイズに、俺は尋ねかけた。 「お前、俺のこと好きなんだろ?」 「なッ!?」 「だから今朝、中野からの告白を断った。そうだろ?」 そうか、そういうことだったんだな……。俺のことが好きだったから、中野の気持ちには 応えられなかったんだな。 「ち、違うもんッ! あれは……!」 「そんな言い訳いらないさ。さあ、ルイズ……!」 「サイト……」 腕を広げた俺の顔を、ルイズはじっと見つめて……。 ドゴォッ! 「バカッ!」 「ぐがッ!」 お、俺の股間に膝蹴りが決まった……。 「ぐおおおおお……! お、俺の股間の夢工場が……!」 「だ、誰があんたをす、す、好きなのよ!? 全く笑えない冗談だわ!」 苦悶にあえぐ俺に、ルイズは真っ赤になりながら怒鳴りつけてきた。 「一つ教えてあげる! 冗談も過ぎると命取りになるの! 分かった!?」 「……勉強になりました……」 「全く! 馬鹿なこと言ってないで、教室に戻るわよ!」 「ふぁい……」 すっかり怒ってしまったルイズは、早足で屋上から中へ戻っていった。く、くそう…… 少し焦りすぎたか……。もっと落ち着いてから質問すればよかった……。ああ、すっげぇ 痛い思いをしてしまった……。 反省しながら俺も教室に戻ろうとした時……扉の陰に春奈とシエスタがいることに気がついた。 あんなところで、授業が始まる前に二人は何をやっているんだ? 「……見ましたか、ハルナさん?」 「ええ、しっかりと。これは……由々しき問題ですね。何とかしなければ」 ……な、何をやってたんだ? まさか……さっきの俺とルイズのやり取りをこっそり見ていたんじゃ……。 異様な威圧感のあるシエスタたちに対して、俺は知らず知らずの内に怖気づいていた。 教室に戻ると……中野がとんでもなくショックを受けたような顔をしていて、次いで俺に 一瞬恨めしい視線を向けた。 げッ……そ、そういえばルイズに振られた張本人がいるんだった……。さっきの、俺が手作り弁当を もらうところを目撃したに決まっているよな……。き、気まずい……。 俺は針のむしろにいるような気分になりながらも、その日の授業を受けたのであった。 そして夜遅くに、自室にいたところにゼロに呼びかけられた。 『才人! 外で何か異常が起きてる!』 「えッ、何だって!? 本当か!?」 『外を見てみろ!』 促されて、窓を開け放つと、俺の住む街に怪しい霧が掛かっていることに気がついた。 「霧……? 今日は晴れだぜ……?」 『ただの霧じゃないぜ。マイナスエネルギーの異様な高まりを感じる……。こいつはマイナス エネルギーの実体化だ!』 マイナスエネルギー……! 俺も話には聞いたことがある。人間の怒りとか嫉妬とか、 負の感情から生じる良くないエネルギーだとか。あのヤプールのエネルギー源でもある。 このマイナスエネルギーが高まると、怪獣が出現しやすくもなるらしい。 ということは……。俺の嫌な予感は的中してしまった。 街に漂う霧に投影されるように青い怪光が瞬くと、一体の巨大怪獣の姿が不気味に浮き上がったのだ! 「ウオオオオ……!」 「あいつは……!」 まっすぐ直立した体型にピンと立った大きな耳、手の甲は葉っぱのような形状で、腹には幾何学的な 模様が描かれている。生物というよりは、何かの彫像みたいだ。そして二つの目から、何故か涙をこぼしている。 データには、硫酸怪獣ホーとある! 「またまた怪獣か……! 行こうぜ、ゼロ!」 俺は怪獣と戦うために変身しようとしたが、それをゼロ当人に止められた。 『待て、才人! あの怪獣、まだ実体って訳じゃないようだぜ!』 「えッ? どういうことだ?」 『奴はマイナスエネルギーの結晶体の怪獣みたいだが、肉体が完全に固形化してないんだよ。 いわば中間の状態だな』 と言われても、俺にはよく分からないが……。 と、その時、怪獣ホーの姿が一瞬揺らぎ、あの中野の姿が見えたような気がした。 「今のは中野……!?」 『俺にも見えたぜ。気のせいとか幻とかなんかじゃねぇ。あの怪獣はどうやら、中野真一の 負の感情が中核になってるみたいだ!』 な、何だって!? 中野の感情は、怪獣になるまで大きかったのか……! というかそうなると、 ホーの出現の原因の半分は俺ってことになるのか!? 俺があいつを尻目に、ルイズから弁当を 受け取ったりしたから……。 さすがに中野の感情の化身を闇雲に倒すのは目覚めが悪い。ホーの核があいつっていうのなら、 中野を説得して怪獣を消し去ろう! 「中野に、怪獣を消すように説得をしなくちゃ!」 『ああ!』 俺は遮二無二部屋を飛び出し、中野の家の方へと大急ぎで走っていった。ホーにまだ暴れる 様子はないが、いつまで続くかは分からない! しかし中野の家にたどり着く前に、夜の街の中で肝心の中野を発見した。何故か、矢的先生と一緒にいる。 「真一、聞こえるか? あの怪獣の鳴き声は、お前の声だ! 夢の中でお前が作ってしまった怪獣だ! 憎しみや悲しみ、マイナスの感情を吸収して、あそこで泣いてるんだ!」 先生は中野に向けてそう告げた。先生もホーの正体を見抜き、俺よりひと足先に中野を説得して、 怪獣から解放しようとしているのか? 民間人のはずの先生が、そんなことまでするなんて……。 そんなにも生徒のことを考えているのだろうか。 話がややこしくならないように、俺は物陰にこっそりと隠れながら話の行方を見守る。 そして矢的先生は、中野に対して語り出した。 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ。でも、本当の愛ってそんなちっぽけな ものなのか? 人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな」 ……矢的先生……。 「想う人には想われず! よくあることだぞ。先生だってそんなことあったよ」 「先生も?」 「うん。……故郷にいた頃、本当に好きな女の子がいてなぁ、その子のためなら、何でもしようと思った。 その子、楽器欲しがってたんだ。先生どうしても買ってあげたくてさ、必死になってバイトした! だけどな…… 二ヶ月目にやっと手に入れた時には、遅かったよ。その子には、新しい恋人が出来てたんだ。悲しかった……。 悔しかった。憎かったよ! だけどな、先生そのままプレゼントしたよ! その楽器が、先生の本当の心を、 鳴らしてくれると思ってな。それで終わりだよ……! 今はもう懐かしい思い出だ」 先生に、そんな苦い思い出があったんだな……。 『……何だ? どこかで聞いた話のような……』 何故かゼロが首をひねっていた。 自分の過去を話した先生は、改めて中野に呼びかける。 「真一、あの怪獣を作った醜い心が、お前の本当の気持ちなんて先生思わないぞ。今にきっと お前にも分かる!」 しかし、中野は、 「分からないよ! 俺、憎いんだ! 悔しいんだよぉーッ!!」 その絶叫に呼応するように、とうとうホーが完全に実体化して暴れ始めた! 「ウアアアアアアアア!」 地団駄を踏むように行進して、近くの建物を薙ぎ倒す! 「くそッ、結局こうなっちまうのか……!」 『仕方ねぇ! 才人、怪獣を止めるぜ!』 「ああ! デュワッ!」 俺は街を守るためにゼロアイを装着して、ウルトラマンゼロに変身した! 『やめろ、ホー!』 巨大化したゼロはすぐさまホーに飛びかかっていって、押さえつけて街の破壊を食い止めようとした。 「ウアアアアアアアア!」 けれどホーは暴れる勢いを止めようとしない。その両眼から涙がボロボロと飛び散り、 一滴がゼロの手に落ちる。 途端に、ゼロの手がジュウッと焼け焦げた! 『うおあぁッ!? あぢッ、あぢちちちッ!』 反射的にゼロは手を放してしまう。 『ゼロ、ホーの涙は硫酸なんだ!』 『くそッ、何て迷惑な奴なんだ……!』 「ウアアアアアアアア!」 ホーはわんわん泣きわめき、辺り一面に硫酸の涙をまき散らす! 何て危険な! 『や、やめろ! くそぉッ!』 阻止しようにも、涙の勢いは雨あられで、ゼロも容易に近づくことが出来ない! そして涙の一滴が、ホーを生み出した中野にまで飛んでいく! 『あッ……!』 「危ない真一ッ!」 それを助けたのは矢的先生だった。けど中野の身代わりに、先生が肩に硫酸を浴びて火傷を負ってしまう。 「先生……俺のために……!」 「そんなことより……怪獣を見ろ……! 奴は、ルイズの家の方に向かってる……!」 何だって!? 確かに、ホーはどこかに移動しようとしているように見える。まさか、 ルイズを殺そうってのか!? くそッ、それだけは絶対にさせるものか……! 「お前の潜在意識が、怪獣をルイズのところに行かせるんだ! お前は本当にルイズが憎いのか!? いいのかそれで!」 先生は大怪我を負ってもなお、中野を説得しようとしていた。矢的先生……! 「本当にそれでいいのか!? 真一ッ!」 先生の呼びかけに……中野も遂に応えた。 「消えろー! お前なんか俺の心じゃない! 消えろーッ!!」 中野は自分の憎しみを捨てた! 「ウアアアアアアアア!」 ……けど、ホーは消えない! それどころか、ますます凶暴になって暴れ狂う! 『ど、どうしてなんだ!?』 『ホーはもう、あいつの心から離れて独立した存在になっちまった! こうなったからには、 倒す以外にないぜ!』 くっそぉ……! だったら、とことんまでやってやるぜ! 俺たちは気持ちを重ねて、 ホーに立ち向かう! 『おおおおおッ!』 「ウアアアアアアアア!」 今度は硫酸にもひるまず、正面から間合いを詰めて打撃を連続で入れていく! が、ホーは ゼロの身体を掴んで軽々と投げ飛ばした! 『うッ!』 「ウアアアアアアアア!」 地面に打ち据えられたゼロに馬乗りになったホーは、両手の平で激しくゼロを叩く。 『ぐッ……! 調子に乗るなッ!』 自分の上からホーを振り払ったゼロだが、起き上がった瞬間にホーの口から放たれた火炎状の 光線をまともに食らってしまった! 『ぐああぁッ!』 痛恨のダメージを受けるゼロ! カラータイマーもピンチを知らせる! 『今の光線の威力……何てパワーだ!』 『人の心から生じたマイナスエネルギーを直接吸収して、力と憎しみが膨れ上がってるってところか……!』 マジか……! 人間の憎しみは、それだけのパワーになるってことなのか……! 同じ人間として、 恐ろしい気分になる……。 『だからこそ、負ける訳にはいかねぇぜ! とぉあッ!』 勇んで地を蹴ったゼロは、そのままウルトラゼロキックをホーにぶち込んだ! この必殺キックは さすがに効いたようで、ホーに大きな隙が出来る。 「シェエアッ!」 そこにワイドゼロショットが発射される! 直撃だ! 「ウアアアアアアアア……!」 しかし、ホーはワイドゼロショットを食らっても倒れなかった! ほ、本当にとんでもない奴だ……! 『だが、こいつで今度こそフィニッシュだぁッ!』 ゼロはひるまず、ゼロツインシュートを豪快に放った! 「ウアアアアアアアア!」 それが遂に決まり手となった。ホーの全身が赤い炎のように変わり果て、身体の内側から 輪郭の順に飛び散って完全に消え失せた。 やった……! ゼロの勝ちだ。ゼロは恐ろしい、人間の憎しみの心にも勝ったんだ……! ……今日もまた、才人は覚醒して身体を起こした。 「……本当の、愛……」 またしても夢のことはほとんどを忘れ去ってしまった才人だが……誰かが熱く語った 「本当の愛」についての内容だけは、記憶に残っていた。 そして日中、 「こらぁーサイトッ! あんたまた、わたしの見てないところでメイドとイチャイチャしてたそうね! しかも今度はクリスともだそうじゃない! この節操なしの犬! 一辺教育し直してあげようかしら!?」 ルイズはまた何か変な誤解をしたようで、怒り狂って才人に詰め寄ってきた。いつもの才人なら、 彼女の怒りから逃れようと必死に言い訳を並べていることだろう。 だが、今の才人は違った。 「なぁ、ルイズ」 「な、何よ? 今日はいやに落ち着き払って……どうしたっていうのよ? 何か変よ」 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ……。本当の愛って、そんなちっぽけな もんじゃないだろう?」 困惑したルイズに、才人は夢で覚えた言葉を、すました態度で告げた。 「人のお返しを期待する愛なんて、偽物。お前もそう思わないか?」 ふッ、決まった……と言わんばかりに、格好つけた様子でルイズと目を合わせる才人。 果たして、ルイズの反応は、 「……知った風な口を利くんじゃないわよぉッ!」 余計に怒らせて、ドカーンッ! と爆発をお見舞いされた。 「ぎゃ―――――――――ッ!!」 「ふんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだか……!」 ツカツカとその場を離れていくルイズ。後には、黒焦げになった才人がバッタリと倒れ込んだ 姿だけが残された。 「ど……どうしてこうなるんだ……」 ピクピク痙攣した才人は、そうとだけ言い残して力尽きた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 21.最高の盗賊に栄光あれ 最近、才人は家に帰ると自室の押入を開けその中に入る。 オブリビオンの門がそこに開いているのだ。 正確にはヴァーミルナの領域、クアグマイヤーへの門が。 『おお、ぼーやか。おもしろかったぞこれ』 と、ヴァーミルナはご満悦そうに言った。 ドリルが格好良くて怖かったらしい。たしかにそうだ。 「また怖くできそう?」 『ああ。もっともっと怖くできるだろうなぁ』 にんまり顔の彼女はひどく可愛らしい。 そりゃ、才人が頼んだ姿形に変わってくれるのだから当然だが。 「ところで、ここっテさ」 『なんだ?』 「いや、ヴァーみルナが創った化け物とかは見るケど、 元からいルのっておマえだけダよなって思ってさ」 時間が経って二人の仲は良くなった。ヴァーミルナからしてみたら恐怖の情報源であり、 自身の信奉者なのだから、それなりに礼は尽くそうと思っている。 才人からしてみれば、何というか姿形もそれはそうだが、 どこか儚げな感覚が常に付きまとう彼女に、面と向かって見られると、 顔が赤くなってしまったりもする。 それをネタにからかわれたりもしているが。 『ああ、いらないからな。寂しくなんかないぞ。全くな。全然寂しくなんかないからな』 これ以上ないくらい寂しいから、 構ってくれオーラを出しながら言う彼女を見て、 案外、神様っていウのも人間くサい所があルんダな。 頬を膨らませながらも、何もしないヴァーミルナの頭を撫でながら、 そんな事を才人は考えた。 言うべきかナあ。昨日何かコこで出来ないカなト思ったら、 何デか知らないケど俺にも『創レた』っテ事。 『どうした?ぼーや』 「イや、何デもナいヨ」 そんなこんなで、また二人で悪夢の世界を過ごすのだった。 『Welcome to Quagmire』と書かれた霧の町の中の、 綺麗な湖の畔、二人は佇んでのんびりと過ごす。 何もせずにただ、それだけで何となく二人とも気分が良い。 車が湖に落ちた。だが、それが彼にとっての幸せなのだ。 例えそれが妻の望みでないとしても。 才人の精神は摩耗しているかもしれない。 マーティンのような英雄でもない常人の身で、 人でない存在の領域、オブリビオンに居続けるということはどういう事か。 彼はまだ理解できていないのだ。ヴァーミルナは気付いてすらいない。 あいつは、いなくなった。私よりもどこかに消え去る事を選んだ。 エセリウスにすらいない。どこに行ったか未だ分からない。 けど、こいつは。いや、何を考えているんだ私は。 ヴァーミルナに芽生えたそれは、ずっと昔に忘れた感情の一つであった。 アルビオン王国最後の砦、ニューカッスル城。 『イーグル号』と『マリー・ガラント号』は、 その城の隠された港を通り、ルイズ一行は現在、 ウェールズの居室にいた。 ここが王子の部屋?私の寝室よりひどいぞ。 マーティンはそう思いながら、曇王の神殿を思い出す。 北国故食う物はワイン以外悪く、オブリビオンの門を完全に塞ぐ為に、 デイドラ研究の毎日だった。しかしそれでも寝床は、 ちゃんとした皇帝らしいベッドで眠れた。 皇帝直属の護衛部隊である、ブレイズ側からしてみれば、 これぐらいはしないといけない。と考えていたらしかった。 「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、たしかに返却したぞ」 「ありがとうございます」 ルイズが恭しく手紙を受け取ってから、明日の便でトリステインに帰りなさいと、 ウェールズは言った。 「その、殿下。王軍に勝ち目は無いのですか?」 「ああ。万に一つすらね。今我々に出来ることは、勇敢な死に様を奴らに見せる事だけだ」 言いながら笑うウェールズを見て、マーティンはいたたまれなくなった。 自分も、下手をすればこうなっていたのだ。そう思って。 「殿下…この手紙は――」 それは恋文であり、アンリエッタとは恋仲だった。そうウェールズは言った。 ルイズは彼に亡命を勧めたが、結局彼は折れようとはしなかった。 「君は正直だね、ミス・ヴァリエール。だが、亡国への大使としては適任だろう。 もはや我らに隠す事などない。誇りと名誉だけが我々を支えているのだ」 さぁ、パーティが始まる。最後の客である君たちを是非とももてなしたい。 ウェールズの言葉を聞き、マーティンとルイズは部屋を後にした。 ワルドがウェールズに頼み事をして、ウェールズはそれを引き受けた。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる――」 王の言葉がパーティ会場のホールに響く。 彼はおそらく、本心から皆の事を気遣っての事だったのだろうが、 むしろ、余計に明日の最後の戦いへの士気を上げる事となってしまった。 だが、それで良いのかもしれない。 彼らは、もう助けることが出来ないのだ。 もしトリステインに入れてしまったら何が起こる? 貴族派へトリステインを攻め入る口実を作るだけだ。 それに、ここで助ける事ができても彼らはどう生きていけば良い? 最後の最後まで残った彼らは、決して他の王へなびきはしないだろう。 一人の君主に仕える、彼らの意地と誇りを汚そうとする真似なんて、 マーティンには出来なかった。もしかしたら、デイゴンを倒せなかったら、 自身がこのような事を言っていたかもしれないのだ。 だからこそ、マーティンは彼らの勧める物を一つ残らずいただく事にした。 「おお、良い飲みっぷりですな!それでこそ勧めた甲斐があるという物。ささ、もう一杯!」 彼らは、悲しみだとか恐怖を忘れ、どうやって格好良くあの世へ逝くかを考えているのだろう。 この雰囲気は北の街『ブルーマ』近く、決戦場と今では呼ばれる、あ のデイゴンの軍隊と戦った時の空気と殆ど同じだった。 勝てるかどうか。そんな事は全くもって分からなかった。 だが、勝たなければ定命の存在全ての命が脅かされてしまう。 勝つ他無かった。あの時も友がいたからこそ何とかなったな―― 昔を思う。皆と、かの英雄がいたからこそ上手く行ったのだな、と。 ふと、辺りを見回してみると、ルイズの姿が見あたらない事に気付いた。 おそらく、この空気が嫌になったのだろう。分からないでもない。 だが、ワルド子爵も気付いたらしい。私に礼をすると、 彼女を探しにホールから出て行った。 気が付いたら、隣にウェールズ皇太子がいた。 「人が使い魔というのは珍しいものですね」 「いやはや、トリステインでも珍しいそうですよ」 違いないでしょうね。ウェールズは笑った。心からの笑みだった。 彼も恐怖が無いわけではない。ただ、忘れて進もうとしているだけだ。 だから彼は司祭だという彼に祈って欲しかったのだ。 「貴男の様な若い方に先に逝かれるのは聖職者としてでなくても悲しい事です」 「そうですかな?けれど、おそらく私たちは祖先の下へ行く事が出来るでしょう。祈って下さいますか?明日の為に」 「その、私はこの辺の国の司祭では無いので――」 おお、とウェールズは驚いたらしい。目を見開きしっかりとマーティンの顔を見た。 「いや、失礼。では、あなたの国の神でも構いません。祈ってくださいますか」 「ええ、分かりました。九大神よ、民草を守り導いた戦神タロスよ。どうかこの者達にご加護をお与え下さい…」 マーティンの古い祖先、タイバー・セプティムが神格化した存在、タロス。 北の竜の異名を持つ彼は死後、神格化して後戦いの神となり、 旧八大神に加わって、今のタムリエル帝国の国教『九大神』に奉られる神の一つとなったのだ。 「ありがとう。始祖と更に異国の神の加護を得られたのだ。 明日の戦は敵に目に物見せることが出来るだろう。感謝するよ。ミスタ・セプティム」 どういたしまして。本来なら負け戦になんてなって欲しくないが、 しかし、もうどうしようもないのだ。ほんの少しの人間で、 どうすれば大勢の敵にかなうと言うのか。 マーティンは、ウェールズが遠のいた後、 自分の寝床はどこかを給仕に尋ねていると、ワルド子爵に肩を叩かれた。 「マーティンさん。すこしお話したいことが」 「ええ。どうかしたのですか?ミスタ・ワルド」 ウェールズ皇太子を仲人に、明日結婚式を挙げるとの事だった。 勇敢な戦士、もしかすれば英雄になりえる者からの祝福は、 とてもありがたい物だ。マーティンはそう思い、 邪魔者にならない様に先に帰るべきか聞いた。 「いえ、問題はありません。グリフォンでも滑空で帰りますから」 それならあまり労力を使わないで帰ることが出来るらしい。 なるほど。そういう事なら出席しよう。マーティンはホールを離れ、 今日の寝床へと、ロウソクの燭台を持ちながら進んだ。 嗚呼、何故己はこうなのであろうか? ジェームズ王は、ベッドの中一人ため息をついた。 いつも、いつも自分の行いたい事を伝える事が出来ぬ。 思えばモードの時も―― 「夜分遅く、申し訳ありません陛下」 何人かの従者が困惑する中、扉から男が現れた。 嗚呼、なるほどな。王はこの男を見たことが無かったが、 おそらく先ほどのパーティで、 本当の所逃げたいと言いたかったのだと思った。 熱狂とは怖い物だ。いつだって正常な思考判断を無くしてしまう。 何故、私はこの様な事ばかり…己が無能だからだな。 コホンと王は咳をして、人払いを命じた。 立ったままの男と、ベッドに入った王が対峙する。 「用件は、先ほどの席の話かね?」 「いえ、プリンス・モードについての事です」 心臓が、凍った。 「な…」 「娘がまだ生きているのです。そして、何故かような事をしたのか、何があっても聞いてきて欲しいと」 ああ、そうだった。何が王に続くが良い、だ。 自身に戦場で散る様な名誉が、 残っているはずなかろうというのに。 「ああ、全て話そう。何があったか。全てをな」 マーティンが廊下を歩いていると、ルイズが廊下の窓を開けて、 月を見ているのを見た。涙を流している。 マーティンは何も言わず、彼女の近くへと行った。 ルイズは彼に気付いて、どうにか泣くのをやめようとしたが、 止めどなく涙があふれ出し、どうにもやめることが出来なかった 「泣きたい時は泣けるだけ泣いた方が良い。後で泣かなかった分後悔するからね」 優しく諭すようにマーティンは言った。 ルイズはマーティンに抱きつき、声を上げて泣き出した。 彼はルイズの頭を優しく撫で続けた。 少し落ち着いたらしい。ルイズが口を開いた。 「いやだわ…あの人たち…どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫さまが逃げてって言ってるのに、 恋人が逃げてって言ってるのに…」 「逃げたとして、どうするね?」 「トリステインで、匿えばいいじゃない。バレたりしないわ」 「彼らも貴族だよ。誇りや意地を無くす事は出来ない」 それでも、それでも。とルイズはまた泣きそうになって言う。 よしよしとマーティンは頭をなで続けた。 ルイズも理解はしている様だ。ただ、 それを是とは何があろうとしたくないのだろう。 当たり前だ。どうして今日知り合った友人の死を許すことが出来るか。 だが、どうしようもないのだ。本当に、どうしようもないのだ。 「それが、真でございますか」 真実が語られ、沈黙に包まれた寝室の中、見知らぬ者が小さく言った。 「うむ。さぁ、朕を討て。あの娘にはそれをするだけの理由がある」 「何か勘違いしておりますな。陛下」 男はニヤリと笑った。 「何が違うと言うのか。汝は朕の命を狙いにあの娘から頼まれたのであろう?」 「残念ですが、命を盗む事は我らの流儀に反するのです」 「何…盗むだと?」 男は灰色頭巾を被った。途端に王の顔色が変わる。 「き…貴様まさか!!」 「待たせたな!と言うべきだろうかな。テファにあんたと王子を助けろと言われて来たのだ。手ぶらで帰る気は全くないぞ?」 グレイ・フォックス。彼が起こすは不可能な任務の成功劇。 やがて起こる、一連の伝説的な時代の幕開けを飾るとも言えるこの事件は、 後の世では歌劇として親しまれた。灰色狐の伝説が、今また一つ書き記されようとしている。 クエスト『灰色狐の強奪』が更新されました。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十七話「決闘!ウルトラマンゼロ対悪のウルトラ戦士」 ウルトラダークキラー 悪のウルトラ戦士軍団 登場 六冊の本の旅を終えた才人とゼロだったが、ルイズの記憶は元に戻らなかった。更にはルイズが ダンプリメなる謎の人物に、本の中にさらわれてしまった! 才人たちはダンプリメの正体を、 ガラQに説得されたリーヴルから知らされる。ダンプリメは長い年月を経て本に宿った魔力が成長して 誕生した存在であり、人間に関心を持った末に莫大な魔力を秘めているルイズを自分のものにしようと、 リーヴルを脅して今回の事件を仕組んだのであった! そんなことを許せる才人ではない。彼は リーヴルの手を借りて、ダンプリメが待ち受ける七冊目の世界へと突入していった……! 「うッ……ここは……」 才人がうっすら目を開けると、そこはもう図書館ではない別の場所であった。本の中の 世界に入ったに違いない。 しかし七冊目の本の世界は、これまでの六冊の世界とは大きく異なっていた。それまでの 本の世界は、様々な宇宙の地球の光景そのままの街や自然で彩られた景観が広がっていたのに、 この世界は360度見渡す限り薄暗い荒野が続いていて、石ころとほこりしかないようであった。 「随分殺風景だな……。至るところに何もないぜ」 「それはそうさ。この本の物語はまだ一文字たりとも書かれていない。だからこの世界には まだ何もないのさ」 才人の独白に対して、背後から返答があった。才人は即座にデルフリンガーを抜いて振り向いた。 「ダンプリメ!」 果たしてそこにいたのはダンプリメ。才人のことを警戒しているのか、デルフリンガーの刃が 届かない高さで浮遊している。 「物語はこれから綴られるんだ。ウルトラマンゼロ……君たちが敗北し、ボクとルイズの永遠の 本の王国が築かれるハッピーエンドの物語がね」 ダンプリメはすました態度でこちらを見下ろしながら、そんなことを言い放つ。対して才人は、 デルフリンガーの切っ先をダンプリメに向けて言い返した。 「残念だったな。これから書かれるのは、俺たちがルイズを救出して現実世界に帰るハッピー エンドの物語だ!」 早速ダンプリメに斬りかかっていこうと身構える才人だが、それを察知したダンプリメは 才人から距離を取りつつ告げた。 「まぁ落ち着きなよ。そう勝負を急がずに、前書きでも楽しんでいったらどうだい? たとえば、 ボクがどうして六冊もの本の世界を君たちにさせたのか」 「何?」 自在に宙を舞うダンプリメが逃げに徹していると、才人も狙うのが難しい。相手の動きを 常に警戒しながら、ダンプリメの発言を気に掛ける。 「ルイズを手に入れる上で最大の障害である君たちを排除するため……おおまかに言って しまえばそういうことだけど、それは旅のどこかで本の怪獣たちに倒されればいいな、 なんて希望的観測じゃないんだよ。ボクも、そんな不確実な方法に頼るほど馬鹿じゃない」 「じゃあ何のためって言うんだ」 才人が聞き返すと、ダンプリメは自分でも言っていたように、遠回りな説明を始める。 「ところでボクは本から生まれた存在なだけに、その知識量はこの世界の誰の追随も許さない ものと自負している。何せ、トリステインの図書館の蔵書数がそのままボクの知識だからね。 それは世界の全てを知っているということに等しい。それこそあらゆることをボクは知っているし 実際に行うことも出来る……剣術も間合いの取り方だって達人のレベルさ」 いつの間にか、ダンプリメが剣を手に才人の背後にいた! 間一髪察知した才人は振り向きざまに、 相手の斬撃をデルフリンガーで弾く。 「図に乗るな! いくら本の内容を全部知ってるからって、世界の全てを知った気でいるのは 自惚れだぜ!」 「そうだね。逆に言えば、本に書かれてないことをボクは知らない。そう、君の中の光の戦士、 ウルトラマンゼロ。それなんかがいい例だ」 単なる余興だったのか、剣を弾かれても平然としているダンプリメは、才人の胸の内を指差した。 「ハルケギニアの外の世界からやって来て、超常的な力であらゆる敵を粉砕する無敵の戦士。 その力の前では、どこまで行っても本の世界から外に出ることは出来ないボクは呆気なく 粉砕されてしまうだろう。そう考えたボクは、リーヴルを通じてある策を実行した。無敵の ウルトラマンゼロを『本の中の登場人物』にしてしまうというね」 「何!?」 ここまでの説明で才人も、ダンプリメの狙いが薄々分かってきた。 「本の中に引き込んでしまえば、ボクは相手の能力を分析することが出来る。六冊分もの 旅をさせて、既にウルトラマンゼロの力は隅々まで把握してるよ。……だけど、狙いは それだけじゃあないんだ」 「まだあるってのか!」 「旅の中で、君たちは度々その本の世界には本来存在しない怪獣と戦っただろう。あれらは ボクの介入で出現したんだ。何でそんなことが出来たのかって? それはこの『古き本』の 力によるものさ!」 ダンプリメが自慢げに取り出して見せつけたのは一冊の本。それは……。 「怪獣図鑑!?」 どこで出版されたものか、古今東西の様々な怪獣の情報が記載されている図鑑であった。 そんなものまでトリステインに流れ着いていたのか。 「それだけじゃない。本の中の存在も生きてるんだよ。本の中の怪獣が君たちに倒されるごとに 生じた怨念のエネルギーも、ボクは集めてたんだ。そういうこともボクは出来るんだよ」 それは黒い影法師の力か。ダンプリメはそんな能力まで学習していたのだ。 そしてダンプリメの周囲に、六つの禍々しく青白い人魂が出現する。 「……それが真の狙いかよ!」 「さぁ、機は熟した。ウルトラマンゼロへの怨念が一つになり、今こそ誕生せよ! ゼロを 上回る最強の戦士よッ!」 ダンプリメの命令により人魂が一つになり、マイナスエネルギーも相乗効果によって膨れ上がる。 そして人魂が巨大化して戦士の形になっていった! 「あ、あれは……!」 新たに生まれた、邪悪な力をたぎらせる巨人の戦士を見上げて、才人は思わずおののいた。 あまりにもおぞましいオーラを湛えた異形の姿だが、胸の中心に発光体を持つその特徴は、 明らかにウルトラ戦士を模していた。頭部には四本ものウルトラホーン、腕にはスラッガーが 生えていて、様々なウルトラ戦士の特徴を有しているようである。 「目には目を。歯には歯を。古い言葉だが、ウルトラマンを葬るのにも闇のウルトラマンが 最もふさわしいだろう。君たちウルトラ戦士を抹殺する闇の戦士……ウルトラダークキラー とでも呼ぼうかな」 「馬鹿な真似はよせ! 闇の力ってのは、手を出したら取り返しがつかないことになるぞッ! 今ならまだ間に合う!」 警告を飛ばす才人だが、ダンプリメは取り合わず冷笑を浮かべるだけだった。 「おやおや、ウルトラダークキラーを前にして臆病風に吹かれちゃったかな? 君が勇士と いうのは、ボクの買い被りだったかな」 「……どんなことになっても知らねぇぞッ!」 才人はやむなくウルトラゼロアイを装着して変身を行う。 「デュワッ!」 才人の身体が光り輝き、この暗い世界を照らそうとするかのように閃光を発するウルトラマン ゼロが立ち上がった。 「ふふ、いよいよ最後の決戦の始まりだ。さぁウルトラダークキラーよ、恨み重なるウルトラマン ゼロをその手で闇に還すがいい!」 ダンプリメの命令によって、ウルトラダークキラーが低いうなり声を発しながら腕のスラッガーで ゼロに斬りかかってきた! 「セアッ!」 こちらもゼロスラッガーを手にして対抗するゼロだが、ダークキラーの膂力は尋常ではなく、 押し飛ばされて後ろに滑った。 『くそッ、とんでもねぇパワーだな……!』 ダークキラーは倒した本の怪獣全ての怨念の結集体というだけあり、力が途轍もないレベル だということが一度の衝突だけでゼロには感じられた。 『こいつは全力で行かねぇと駄目なようだな! デルフ!』 そこでゼロはゼロスラッガーとデルフリンガーを一つにして、ゼロツインソードDSを作り出した。 本の世界では一度も使用していないこれならば、ダンプリメも対策はしていまい。 『こりゃまた歯ごたえのありそうな奴じゃねぇか。相棒、遠慮はいらねぇ。かっ飛ばしな!』 『もちろんだぜ! はぁぁぁぁぁッ!』 ゼロはツインソードを両手に握り締めて、一気呵成にダークキラーへと斬りかかっていった。 ゼロツインソードとダークキラーのスラッガーが激しく火花を散らしながら交差する。 ダークキラーはその内にゼロを突き飛ばすと、スラッガーを腕から切り離して飛ばしゼロへ 攻撃してきた。 「セェェアッ!」 ゼロは一回転して迫るスラッガーをツインソードで弾き返す。スラッガーがダークキラーの 腕に戻った。 『なかなかやるじゃねぇか……』 一旦体勢を整えて、ひと言つぶやくゼロ。ダークキラーの戦闘力はかなりのもので、 ゼロツインソードを武器にしてもやや押されるほどであった。しかし、ゼロは決して戦いを あきらめたりはしない。どんな相手だろうとも最後まで立ち向かい、勝利をもぎ取る覚悟だ。 だが、この時にダンプリメが次のように言い放った。 「そっちもさすがにやるものだね。このダークキラーに食い下がるなんて。……だけど、 ボクはより確実に君を倒す手段を用意してるんだよ」 『何!?』 「さぁ、ここからが本番だッ!」 パチンと指を鳴らすダンプリメ。それを合図にしてダークキラーの身体から怨念のパワーが 次々と切り離されて飛び散り、それぞれ実体と化してゼロを取り囲む。 それらは全て、ダークキラーと同じように暗黒のウルトラ戦士の形を成した! 『な、何だと……!?』 カオスロイドU、カオスロイドS、カオスロイドT、ダークキラーゾフィー、ダークキラージャック、 ダークキラーエース、ウルトラマンシャドー、イーヴィルティガ、ゼルガノイド、カオスウルトラマン、 カオスウルトラマンカラミティ、ダークメフィスト……ウルトラダークキラーも含めたら何と十三人にも 及ぶ悪のウルトラ戦士軍団! ゼロはすっかり囲まれてしまった! 『おいおいおい……こいつぁ絶体絶命って奴じゃねえか?』 口調はおちゃらけているようだが、その実かなり本気でデルフリンガーが言った。 「行くがいい、ボクの暗黒の軍勢よ! 恨み重なるウルトラマンゼロを葬り去れッ!」 ダンプリメの号令により、悪のウルトラ戦士たちが一斉にゼロへと襲いかかる! ゼロは ツインソードを握り直して身構える。 『くぅッ!?』 カオスロイドやダークキラーたちが飛びかかってくるのを必死でかわし、ツインソードを振り抜いて ウルトラマンシャドーやゼルガノイドを牽制するゼロ。だが悪のウルトラ戦士は入れ替わり立ち代わりで 攻撃してくるので、反撃の糸口を掴むことが出来ない。 そうして手をこまねいている内に、カオスロイドSのスラッガー、ウルトラマンシャドーの メリケンパンチにツインソードが弾き飛ばされてしまった。 『し、しまった!』 回収しようにも、カオスウルトラマンたちやダークメフィストが立ちはだかって妨害してきた。 立ち往生するゼロをイーヴィルティガ、ゼルガノイドが光線で狙い撃ってくる。 『うおぉッ!』 懸命に回避するゼロだったが、十三人もの数から狙われてそうそう逃げ切れるものではない。 ウルトラダークキラーを始めとした悪のウルトラ戦士たちの光線の集中砲火を食らい、大きく 吹っ飛ばされた。 『ぐはあぁぁぁッ!』 悪のウルトラ戦士はどれも本当のウルトラ戦士に迫るほどの恐るべき戦闘能力を持っている。 しかもゼロがたった一人なのに対し、二桁に及ぶ人数だ。多勢に無勢とはこのことで、ゼロはもう なす術なくリンチにされている状態であった。 完全に追いつめられているゼロのありさまに、ダンプリメが愉快そうに高笑いした。 「ははは……! 実質一人で乗り込んでくるからこんなことになるのさ。仲間を危険な罠から 守りたかったのかもしれないけど、一緒に本の世界の中に入る方が正解だったのさ」 今もなお袋叩きにされているゼロを見やりつつ、勝ち誇って語るダンプリメ。 「君はこれまで、一人の力だけで勝ってきた訳じゃないようだね。仲間の助けを受けることも あった。……だけど、この本の世界では君の仲間なんてどこにもいない。君は独りなのさ、 ヒラガ・サイト……ウルトラマンゼロッ!」 最早エネルギーもごくわずかで、息も絶え絶えの状態のゼロにウルトラダークキラーが カラータイマーからの光線でとどめを刺そうとする……! その時であった。 「それは違うわ!」 突然、ダンプリメのものではない甲高い声……才人たちにとって非常に慣れ親しんだ声音が 響き渡り、ダークキラーがどこからともなく発生した爆発を受けてよろめいた。 恐るべき暗黒の戦士のウルトラダークキラーの体勢を崩すほどの爆撃……それも才人たちは よく覚えがあった。 『ま、まさか……!』 ゼロが振り向くと、その視線の先に……桃色のウェーブが掛かった髪の少女が腰に手を当て、 無い胸を張っているではないか! 『ルイズッ!!』 才人は歓喜や驚愕、疑問など様々な感情が入り混じった叫び声を発した。また驚き、動揺 しているのはダンプリメも同じだった。 「そ、そんな馬鹿な! ルイズの意識は確かに眠らせていたはず……それがどうしてこの場に いるんだ!?」 ルイズはダンプリメの疑問の声が聞こえなかったかのように、ゼロに向かって叫んだ。 「ゼロ、しゃんとしなさい! あなたは独りなんかじゃない。……本の世界でも、あなたは たくさんの人を助けて、絆を紡いでいったんでしょう? わたし、覚えてるわよ!」 そして空の一角を指し示す。 「ほら、みんなが駆けつけてくれたわよ!」 ルイズの指差した方向から、ロケット弾や光弾が雨あられと飛んできて、ゼロに光線を 発射しようとしていたカオスロイドU、S、カオスウルトラマン、カラミティの動きを阻止した。 『あれは……!』 ゼロの目に、この場に猛然と駆けつけてくるいくつもの航空機の機影が映った。 ジェットビートル、ウルトラホーク、テックライガー、ダッシュバード! どれも各本の世界で 共闘した防衛チームの航空マシンだ! 「何だって……!?」 またまた絶句するダンプリメ。だがそれだけではなかった。 「彼らだけじゃないわ。ほら見て! みんなやって来たわよ!」 各種航空機の編隊に続いて飛んでくるのは……あれはウルトラマン! ウルトラセブン! ゾフィー! ジャック! エース! タロウ! コスモスにジャスティス! マックス! ティガにダイナにガイアも! 計十二人ものウルトラ戦士がマッハの速度で飛んできて、 ゼロを守るようにその前に着地してずらりと並んだ。さすがの悪のウルトラ戦士たちも、 この事態にはどよめいてひるんでいる。 『み、みんな……!』 声を絞り出す才人。最早言うまでもないだろう。彼らは六冊の本の世界の旅の中、才人と ゼロが出会い、助け、助けられた者たちである。 才人は最後の旅の終わり際にティガ=ダイゴが言っていた言葉を思い出した。「この恩は 必ず返す」……その約束を果たしに来てくれたのだ! 『みんな、本の世界の枠を超えて、助けに来てくれたのか……!』 強く胸を打たれるゼロ。彼はコスモスとジャスティスからエネルギーを分け与えてもらって、 力がよみがえった。 そしてルイズが救援のウルトラ戦士たちに告げるように、高々と宣言した。 「さぁ、行きましょう! このウルトラマンゼロの物語をハッピーエンドにするために!!」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~ 逃亡成功 さて、九死に一生を得て沸き返るニューカッスル城。 正直言ってこれからの戦いは王子たちにとって辛く、長いものになるだろう。 アンリエッタ姫はゲルマニア皇帝と結婚してしまうだろうから、あのニューカッスルで死んでたほうが辛いものを見ることもなかったかもしれない。 王子は気丈にもそんな苦悩を見せず、アルビオン奪還の折には、必ず私たちに礼をすると約束してくださった。 勲章とシュバリエをくれるそうだ。アルビオン貴族になるなら子爵位くらい用意するそうだ。太っ腹だ。 グランパが使い魔でももらえる勲章を作るように頼んでいた。グランパとモグラ分だ。了承する王子。 そっか、そういやアンタ私の使い魔だったのよね。玉に忘れがちになる。BALLSなだ(ry シエスタはしばらくここでニューカッスル城の操縦しつつ、操縦も教えるらしい。 今のニューカッスル城はタキガワ一族以外には操縦できそうもない作りをしているので、 ある程度自動化して最低でも落ちない仕組みにしないといけないらしい。 城なんて航空力学も重量バランスも取れてないですからね、とのこと。 しばらく操縦していればデータがたまってBALLSも学習し、オートマティック化の足がかりが出来てくるだろう。 そういいながらも手や足でレバーやペダルをがっちゃがっちゃ微調整するメイド。 スイッチを切り替えながら頻繁にエンジンやパイプの不具合を報告している。安定しないようだ。 給料は奮発して普通のメイドの10倍出してもらえるらしい。下級貴族の2倍だ。専門職は強いな。 高給にビビッて手足が止まるメイド。たちまち大きく揺れて傾くニューカッスル。 エンジン圧力上昇の報告が飛び、慌ててレバーを回しスイッチを連射するシエスタ。 自動化が必要で、安定しない作りと言うのはマジなようだ。 数年後、資本主義が崩壊することを、私たちはまだ知らなかった。 ポ~~ン シエスタがニューカッスル城に出張しました。 BALLSに頼んで、たとえ残飯であってもご飯にしてくれる調理機械を設置してあげた。 廃棄食材を放り込むことによってでてくる死神定食。 腐ったようなにおいと味の死神定食。 食料の補給を怠ると、餓死を防ぐためにこれを食べることになるので、補給がんばってくださいね。と激励した。 私たちは補給を怠ったので、これを食べつつアルビオンに来ました、と言った。 ボッピキで盛り下がった。 さて、そろそろおいとましよう。 ヴァリエール1号はニューカッスル城から離れていく。 貴族たちが大勢集まり、一斉に敬礼しながら見送ってくれた。 ちょっと胸が熱くなる。答礼。 そうか、ゼロの私でも誰かのためになれたのだ……………。 帰り道、食料を補給することを怠って死神定食が出てきた。 凱旋帰還 町から見えない場所にヴァリエール1号を置くと、私たちは城へ向かった。 任務は無事完了した。 手紙は取り返し、ウェールズ王子も無事落ち延びることに成功した。 姫様は王子が亡命しなかったことに不満そうだが、今は埋伏してアルビオン奪還を狙っていると聞くと少しだけ微笑った。悲しい笑いだった。 褒美として水のルビーを賜った。なんだか気力に満ちてきたような気がする。 次に、トリステインの状況はというと、ラ・ロシェーヌの港の大木は倒れずにすんだそうだ。 なんでも速攻で駆けつけたワルド様が遍在を使って複数個所の固定や保持を指揮するという獅子奮迅の働きをしたという。 近隣にいる傭兵たちを自費で雇って、人足がわりにこき使うことまでされたそうだ。 そして、ニューカッスル城浮上の報告を聞き、ぐったりがっくりしながら王城へ帰ってきたそうだ。 大活躍ではないか、さすがはワルド様。 ところで、それだけの貴族っぷりなのに、どうしてワルド様は部屋の隅で小さくなっているんだろう? 姫様の視線もワルド様にはかなり冷たい。何したんだろう? 学園から少しはなれたところにヴァリエール1号を着陸させ、ギーシュだけ先に帰らせた。 一緒に帰ると何かと勘ぐられることになるだろうから。 後、念入りに今回の件を口止めをしておいた。うかつに口を滑らせると同盟破棄につながりかねないからね。 さて、邪魔者が去ったところでアレをするとしますか。 着替えを用意して、お湯を入れて、服を脱ぎ捨てる。 私は甲板の露天風呂に入って疲れを癒した。 道中はとてもじゃないが、風呂に入れる状況ではなかった。行きは飛んでて寒いし、城では常に人の目があった。 このヴァリエール1号は不具合の修正と破損箇所の修理を兼ねて改装されるらしい。 アルビオンでの脱出行で散々見られているので、普通の軍艦に見えるように外見だけをいじるらしい。 そうなると、この甲板風呂も使えなくなる。つまりはそういうことだ。 名前もヴァリエール壱号に変わるそうだ。 トリステイン人にはあまり変わったようには聞こえない。 くつろぎついでにグランパになんでここまでしてくれるのか聞いてみた。 私も馬鹿じゃない。グランパが、BALLSたちがここまでして尽くしてくれる理由を知りたかった。 それが我々の生まれた理由だから。全ての知類を愛している。 我々が何をしたいのかはキミが理解ってくれるまで待つとのこと。 やたらと難しい言葉を使っていて私には何のことやらわからなかった。 コイツゴーレムなのにすごい詩人だ。 ただ、グランパが人を愛してくれていることはわかった。 私のことはどう思う?とは恥ずかしくて聞けなかった。 一っ風呂浴びて学園に帰ってくると、なぜかモンモランシーの視線と態度が痛かった。 ギーシュと1週間ほど二人旅していたことで仲を疑われているらしい。風呂上りみたいな感じなのと、ギーシュと別々に帰ってきたことも怪しいと疑われた。 しまった、キュルケやタバサぐらい連れて行くべきだったか? それにしてもあんたたち別れたんじゃなかったの? そのキュルケとタバサは、レズと見まがうぐらい仲良しこよしになっていたし、なぜかコルベール先生が靴下に愛を囁いていた。 私たちがいない間に何があったのだろう? BALLSが私たちがいない間の記録を見ますか?と聞いてきたのだが、 『トリステインレズビアン地獄~微熱と雪風の媚薬~』 『同時上映 ソックスハンター異世界伝~ハルケギニア炎蛇の変~』 『同時上映 マチルダちゃんラ・ロシェーヌほうちプレイ』 という題名からして私のSAN値を減らしそうな気がしたので丁重にお断りした。 次の日 料理長のマルトーさんにシエスタは専門技術を請われて、ちょっと私の領地に出張していると説明しておいた。 マルトーさんは、友達が死ぬのがこんなに嬉しかったことはない、と言って泣かれた。ヤバイ、何故かバレテル。コイツも詩人だ。熱血漢だ。 キュルケの夜這い組みの男たちが敗北と感動の涙を流しながら退却していくのは、ちょっと近所迷惑だ。 モンモランシーが目の下にクマを作りながら薬品臭くなっていく。いったいどうしたんだろう? コルベール先生も靴下臭くなっていく。こっち見んな。靴下見んな。 ……………どうすればいいんだろう? 次の日 キュルケとタバサが百合っぽくなくなっていた。倦怠期だろうか? そしてモンモランシーが二人に平謝りしていた。三角関係だったのだろうか? ギーシュが私たちの留守中の記録ディスクをうっかり落として、3人からボコボコにされていた。やっぱりギーシュはギーシュだ。 洗濯して干してた靴下が無くなっていた。 部屋の隅においていたアタッシュケースもいつの間にか無くなっていた。 コルベール先生にシエスタの行方を頻繁に聞かれた。私は口を濁した。ニューカッスルのことは秘密だ。 すると、シエスタの靴下と竜の血の交換を持ちかけられた。いえ、靴下なんて持ってませんよ。先生はがっかりして去っていった。 その後、グランパがパリーの靴下と竜の血を交換しているのを見かけてしまった。 ……………本当にどうすればいいんだろう? 次の日 あ~~気持ちいい。 何もする気が起こらない~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ はっ コレはヤバイ。マジでヤバイ。ヤバすぎたので投げ捨てる。 何もしたくない気がおきる機械はいらんわ。 努力することを忘れたルイズはゼロ以下だ。マイナスだ。 そんなわけでグランパにはこの耳かきをしてくれるBALLSをレコン・キスタにはやらせるように命令した。 結婚前夜 姫様はゲルマニア皇帝と結婚なさるそうだ。 あまりめでたくない。だが、同盟のため仕方がない。 本当に同盟が必要なのだろうか?という気がしないでもない。BALLSの物量と技術は強い。 私は結婚式の巫女として、始祖の祈祷書と詔を読み上げないといけないらしい。詩心の無い私には正直向いてない。 グランパが4属性の感謝に対する例文をざっと40枚ぐらい印刷してくれた。 あと、タバサが何故か協力して、いい文を厳選してくれた。何か狙っているらしい。 これらを組み合わせとけば良いだろう。 それにしてもこの『いちたろう』というのはスゴイ。文章の訂正や添削が非常に楽だ。 前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~
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「栄光は……おまえに…ある……ぞ…やれ……やるんだペッシ。オレは………おまえを見守って……いるぜ…」 「わかったよプロシュート兄ィ!!兄貴の覚悟が!『言葉』でなく『心』で理解できた!」 成長したペッシはブチャラティを後一歩まで追い詰める。 だが…ブチャラティの『覚悟』には敵わず敗北した。 スティッキィ・フィンガーズのラッシュを受けバラバラになっていく体。 数秒後に訪れる明確な死を感じながらもペッシには死への恐怖はなく、唯唯プロシュートの敵を取れなかったことへの『後悔』だけだった。 (プロシュート兄ィ…ごめんよ……) プロシュートの言った『栄光』………まるでそれが目の前にあるかのごとく、最後の力を振り絞り千切れかけた腕を伸ばすペッシ。 そして…ペッシは光を掴む。 鏡のような光を。 新手のスタンド攻撃かと身構えるブチャラティの目の前で、ペッシは光に呑み込まれた。 「プロシュートが線路わきで死亡している」 ブチャラティ達が去り、しばらく後に現れたメローネが言う。 「全身を強く打ち右腕を失っている」 仲間を失った激情を深く押さえ込み酷く淡々と報告する。 「ん?ペッシがいない?」 確かにペッシの足跡はある。 だが、肝心のペッシがいない。 (プロシュートがヤラれた以上、ペッシが一人生き残ったとは考えにくい…それに、ペッシはマンモーニとはいえ仲間を捨てて逃げるようなゲスじゃない) 若干考えた後、一番確立が高かったモノを報告する。 「……ペッシは別の場所でヤラれたようだ」 仲間の死の報告を終えたメローネの携帯を握る手は微かに震えていた。 (なんで私がこんな目にあうのよ~) 春の召喚の儀を終え部屋に帰って来たルイズは頭を抱えていた。 原因は目の前でバカ面をしている使い魔―ペッシだ。 何度も失敗しようやく成功したと思えば居たのは…首がない変な平民。 泣く泣くファーストキスを捧げ、契約をしてみたら……記憶喪失でペッシという名前しか覚えていないらしい。 しかも…見るからに頭の悪そうな顔。 ルーンが刻まれる時、絶叫を上げていたので根性もなさそうだ。 (私の人生……終わった)orz ルイズは絶望した…前代未聞の平民の使い魔と、それを召喚した『ゼロ』の自分に。 周囲に暗黒を背負っているルイズと状況に付いて行けずオドオドするペッシ。 ……こうしてルイズの栄光への道は先行き暗~く始まった。 ルイズ姉ェの栄光への道